ボクにもわかる地上デジタル - 地デジ基礎編 - 相互変調と混変調

              (作成:2004年04月)      地デジTopへ戻る
              (更新:2005年03月)

相互変調

  増幅器に2つの電波が入ったときに、本来は出ないはずの周波数から電波が
  出力される場合があります。これを、相互変調とかインターモジュレーション
  あるいは、IMD、3次高調波歪、3次混変調波歪などと呼びます。

               放送波1 放送波2
                ┃   ┃
                ┃   ┃
                ┃   ┃
           干渉波1  ┃   ┃  干渉波2
            |   ┃   ┃   |
            |IM3- ┃   ┃   |
            |   ┃   ┃   |
       ─────┴───┸───┸───┴──────
         等間隔|←─→|←─→|←─→|    周波数→
            14ch  15ch  16ch  17ch

  相互変調は、2つの放送波の周波数間隔と同じだけ離れた周波数に、妨害と
  なる電波(IM波)を出力し、この妨害波と同じ周波数で放送が受信できなくなっ
  たり、アナログ放送では、スノーノイズやビートノイズが発生してしまいま
  す。上図では、15chと16chに妨害となる放送波を受信した時に、14chと17ch
  に、本来は受信していない干渉波が発生しているイメージを表しています。

  ここで、相互変調の干渉波比が-60dB、定格出力110dBμのブースタの場合に、
  ちょうど定格となる放送波が2波、つまり、107dBμが、混入するとした例を、
  下図に示します。

               放送波1 放送波2
        _____________
        ↑ 定格出力       2波で110dBμ(1波あたり107dBμ)
        │       ┃   ┃
      干渉波比 -60dB   ┃   ┃
        │       ┃   ┃
        ↓  干渉波  ┃   ┃  干渉波 50dBμ
         ̄ ̄ ̄ ̄|   ┃   ┃   |
            ┃IM3- ┃   ┃   ┃IM3+
            ┃   ┃   ┃   ┃
       ─────┸───┸───┸───┸──────
                アンプ出力波形     周波数→

  この時、相互変調の発生する上下2つの周波数においては、50dBμの干渉波
  が発生してしまいます。地上デジタル波は干渉波よりも28dB高い必要があり
  ますので、干渉波の生じる部分では、78dBμ(=50+28)以上のブースタ出力が
  得られる放送波でなければ、受信が出来ないことになります。
  だとすれば、利得を上げれば良いかというと、正反対で、利得を上げると、
  確かに受信したい放送波の出力は上がるのですが、干渉波は、dBで3倍増加
  しますので、より受信できない方向に推移します。また、地上デジタルの増
  力で、放送波が、例えば、放送波が100Wから200Wの2倍(3dBUP)したとして
  も、dBの3倍の9dBの上昇となりますので、脅威的な存在です。

  特に、地上デジタル放送の場合は、この相互変調が問題になります。それは、
  従来、UHFで使用されていた周波数が少なかったのに、地上デジタルになって
  多数の周波数が使用されるようになった点と、地上デジタル放送波は
OFDM
  という約6千波もの電波を1チャンネルにまとめて送る方式を使用していて、
  その放送波の中で相互変調が発生して、自己中毒のように電波を崩しあって
  しまうためです。

AM波混変調

  相互変調と非常に似たものにAM波の混変調があります。AM波とは電波の大き
  さの強弱が変化する妨害波で、この妨害波につられて、全ての周波数の電波
  が強弱してしまう現象を、AM波混変調とか、AM波抑圧、AMサプレッション、
  クロスモジュレーションなどと呼びます。

                    AM変調波
             ________
             ↑ 定格出力  |110μ
             │       ┃   
           干渉波比 -50dB   ┃   
             │       ┃   
       干渉波   ↓       ┃   
       /\/\/\/\|\/\/\┃/\/\/\60dBμ
               ┃     ┃      
               ┃     ┃      
       ────────┸─────┸─────────
                アンプ出力波形     周波数→

  AM波混変調の場合は、AM変調波が1dB上昇すると、干渉波は2dBの上昇です。
  それでも、2乗の上昇ですし、全てのチャンネルに影響する点では、やはり、
  驚異的な存在です。
  例えば、AM混変調の干渉波比が-50dB、定格出力110dBμのブースタの場合に、
  定格110dBμのAM変調波が混入すると、周波数のほぼ全域に60dBμの干渉波
  が発生します。これに28dBを加算すると、88dBμ以上の放送波しか受信でき
  ない計算になります。

まとめ

  相互変調と混変調は、似ているので、比較表を作成しました。

                | 相互変調 |  混変調
   ─────────────┼──────┼───────
   干渉波となる入力妨害波の数| 2波以上 | 1波以上
   発生する干渉波の周波数  | 2箇所以上 |ほぼ全周波数
   発生する干渉波のdB増加量 |  3倍  |  2倍
   発生する干渉波の有害成分 | 全ての波形 |電波の強弱(AM)

関連情報

  相互変調の対策方法については、「対策編-
相互変調」を御覧下さい。



(参考情報)インターセプトポイントとは

  増幅器は、ある一定の入力以上は出力が上がらない特性をもっています。
  (実際には少しづつ上がります)
  下図は増幅器の入力と出力の特性を表した入出力特性図です。図中@の入力
  があるとAの出力が得られることを示しており、入力が増加すれば同じだけ
  出力が増大するB線形特性の領域(増加量1)があります。入力を上げてゆく
  と、徐々に増加量が低下してゆくC非線形特性を示し、さらに上げてゆくと、
  出力が増加しなくなります。また、相互変調IM3は3倍の増加量で増加します。

       ↑
      増|
      幅|                 _____
      器|        C非線形特性 _/ ̄ リミット
      出|             _/   
      力|            _/   
       |          _/    
      dB|         /
       |        /       ______
       |       /      / ̄ リミット
       | B線形特性/    IM3 /|
       |     /|      / |
       |    / |1     / |3
       |   /1 |     /  |
      A┼──/ ̄ ̄ ̄     /  |
       | /|        / 1 |
       │/ |       / ̄ ̄ ̄
       └──┼──────────────────→
          @      増幅器入力 dB

  増加量1の入出力特性と増加量3の相互変調に延長線を付加すると、やがて
  下図のように交点が描けます。この点をインターセプトポイントIP3と呼んで
  います。

       |IP3             インターセプトポイント
       |--------------------------------------●
       |     ↑            //
       |     |       延長線→/ /
       |     |12dB  |     / /
      増|     |    ↓    /  /
      幅|P1dB   ↓    --------/  /_____
      器|--------------------------/-_/ ̄
      出|コンプレッション 1dB↑ /_/  /
      力|ポイント      | _/   /←延長線
       |          _/    /
      dB|         /     /
       |        /     / ______
       |       /      / ̄
       |      /      /|
       |     /|    IM3 / |
       |    / |1     / |3
       |   /1 |     /  |
       |  / ̄ ̄ ̄     /  |
       | /         / 1 |
       │/         / ̄ ̄ ̄
       └─────────────────────→
               増幅器入力 dB

  また、延長線との差が1dBとなる部分をコンプレッションポイントP1dBと呼
  び、インターセプトポイントIP3との差は、およそ12dBとなります。
  (上図では出力IP3でP1dBを示していますが入力であらわす場合もあります)

(参考情報)インターセプトポイントとDU比(DUR)

  希望波(Desired Signal)と不要波(Undesired Signal)の比をDU比(DUR)や
  CI比(CIR、Carrier Interference Rate)と呼びます。

           希望波 放送波1 放送波2
        ─────────────  
        ↑    |   ┃   ┃  
        │    |   ┃   ┃  
      DU比   |   ┃   ┃  
        │    |   ┃   ┃  
        ↓    |   ┃   ┃  
         ̄ ̄ ̄ ̄ ┃   ┃   ┃   ┃
        不要波 ┃IM3- ┃   ┃   ┃IM3+
      (相互変調波)┃   ┃   ┃   ┃
       ─────┸───┸───┸───┸──────
                アンプ出力波形     周波数→


     DU比(DUR)      D=希望波 ⇔ U=不要波
     CI比(CIR)      C=搬送波 ⇔ I=妨害波、干渉波
     SIM比(SIMR)      S=信号  ⇔ IM=相互変調波
     CN比(CNR)      C=搬送波 ⇔ N=ノイズ
     SN比(SNR)      S=信号  ⇔ N=ノイズ
     その他           与干渉波  ⇔ 被干渉波

          ※当サイト内、ページ内でも表現が統一できていません。
           (なるべく、説明ごとに相応しい表現を選択しています)

  DU比は、下図のように増幅器の入力レベルによって変化します。

       |IP3=120dBu
       |--------------------------------------●
       |                  //
       |                 / /
       |                / /
      増|               /  /
      幅|              /  /
      器|Pout=106dBu        /   /
      出|────────────/   /
      力|           /↑   /IM3
       |Pout=100dBu     / |DUR /
      dB|─────────/  |28 /
       |        /↑  |dB/
       |       / |  | /
       |      /  |  ↓/
       |     /    |   /
       |    /     |DUR / 
       |   /      |40 / 
       |  /      |dB/  
       | /       | /
       │/        ↓/
       └─────────────────────→
               増幅器入力 dB

  ここで、インターセプトポイントIP3を用い、増幅器の出力レベルをPoutと
  すると、DU比は以下の式で計算するこ出来るようになります。

        DU比 = 2×(IP3−Pout)

  例えば、IP3=120dBuの増幅器において、Pout=100dBuの出力が得られる時の
  DU比(DUR)=2×(120-100)=40dBとなります。利得を上げて出力を106dBuに
  すると、DU比28dBとなって相互変調波が発生するチャンネルでの地上デジ
  タル放送に影響してしまう場合があります。

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