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OPA用基板を使って自作の MM用 RIAA フォノイコライザを簡単に製作!

アナログ レコードプレーヤ用 MMカードリッジの出力信号を、通常のオーディオ信号に変換するフォノイコライザを製作します。汎用オーディオOPA基板を使えば比較的簡単です。

RIAA フォノイコライザとは

アナログのレコードプレーヤーをアンプに接続するときに必要な機能です。レコード針から拾った小さな信号の増幅処理と、 RIAA フィルタと呼ばれる音質復元処理を行います。

RIAA フォノイコライザ = 増幅処理 + フィルタ

下図は、フォノイコライザのフィルタ特性です。

RIAA フィルタの特性、横軸=周波数(Hz)、縦軸=相対音圧(dB)

昔のアンプには、 RIAA フォノイコライザーが内蔵されていたので、不要でした。しかし、近年のアンプには搭載されていません。

その一方で、近年はレコードプレーヤー側に RIAA フォノイコライザーが標準搭載されるようになりました。下図は、フォノイコライザーが搭載されているレコード・プレーヤーの一例です。ノイズの影響を受けないようにシールドで覆われています。

近年のレコード・プレーヤの内部には標準的にRIAA フォノイコライザが搭載されている

なぜ外付けフォノイコライザが必要なのか

外付けフォノイコライザが必要となる場合の一例を説明します。フォノイコライザーがレコードプレーヤーにもアンプにも内蔵されていない場合はもちろん、その他の場合もあります。

  • レコードプレーヤーにもアンプにもフォノイコライザーが搭載されていないとき
  • 内蔵フォノイコライザーの性能が良くないと思ったとき
    (一例として、ハイレゾに対応したい)
  • 使用するカードリッジに適した調整をしたいとき
    (一例として、負荷抵抗を合わせたい)
  • 出力の小さなカードリッジの音量を上げたいとき
    (一例として、利得を上げたい)
出力が小さいカートリッジの一例
(Denon DL-110・写真は同社の商品紹介ページのものを使用)

例えば、上図のカートリッジ Denon DL-110 の場合は、出力が1.6mVと低く、負荷抵抗は47kΩを推奨としています。また、周波数は45kHzまで伸びています。筆者は所有していませんが、このカートリッジに対応するために、利得アップ対応と、負荷抵抗アップ対応、ハイレゾ対応を考える人は多いでしょう。

秋月キットAE-KIT45-HPAを使用

下図は秋月電子通商が販売するヘッドフォンアンプ用のキット AE-KIT45-HPA です。この基板を改造して製作しますが、このままだと次節で説明するGNDに課題があります。

秋月電子通商が販売するヘッドフォンアンプ用のキット AE-KIT45-HPA の製作例(改造前・この状態ではRIAAフィルタが入っていない)

GNDのDC電位に注意する

下図は AE-KIT45-HPA の改造前(RIAAフィルタなし)の回路図です。電源CN1には DC 15V のACアダプターを接続し、OPA(オペアンプ)U1に ±7.5V を供給します。

AE-KIT45-HPA の改造前の回路図
秋月電子通商のWebサイトから転用した回路図に赤丸を追加
https://akizukidenshi.com/catalog/g/g112309/

課題は、赤丸印部分の4か所です。電源CN1のマイナス側 -7.5V が、オーディオ信号のGND側(0V)に接続されます。

つまり、マイナス -7.5V がオーディオのGND側 0V に接続されるので、電源がショートしてしまいます。気づきにくいポイントなので、注意してください。

下図は、電源CN1のマイナス側 -7.5V となる上図の赤丸印の4か所を紫色で、オーディオのGND側 0Vを黄色で示した基板図です。

AE-KIT45-HPA の基板図(裏面)
秋月電子通商のWebサイトから転用した画像に情報を追加して作成
https://akizukidenshi.com/catalog/g/g112309/

対策方法とフォノイコライザの回路定数

その対策は簡単です。VR1とVR2はフォノイコライザーには不要なので実装しなければ済みます。また、オーディオ入出力端子のJ1とJ2も使用できません。したがって、オーディオ入出力用のGNDは、前記の基板図の黄色の部分に接続します。

  • VR1とVR2を実装しない
  • オーディオ入力と出力用のGNDは0V電位▽に接続する

また、フォノイコライザーとして使用するためには、OPA(オペアンプ)やフィルタの回路定数を変更する必要があります。

改造後の回路図

下図は、改造後の回路図です。オーディオ入出力のGNDは、この回路図上の▽(逆三角マーク)の0V電位部に接続します。

AE-KIT45-HPA を改造して製作したフォノイコライザの回路図(全体)
秋月電子通商のWebサイトから転用した回路図をもとに改変
https://akizukidenshi.com/catalog/g/g112309/

フォノイコライザ部の回路定数

フォノイコライザー部の回路定数は、下記のサイトを参考にし、抵抗をE12シリーズで対応できるようにしました。コンデンサーはE6シリーズで対応しています。

参考文献:
アナログ・レコード再生に使われるRIAAイコライザとは(CQ出版社, オンラインサポートサイト), 小川 敦
https://cc.cqpub.co.jp/system/contents/3738/

下図は回路図のOPA(オペアンプ)部を拡大したものです。

AE-KIT45-HPA を改造して製作したフォノイコライザの回路図(OPA部)
秋月電子通商のWebサイトから転用した回路図をもとに改変
https://akizukidenshi.com/catalog/g/g112309/

入力部の抵抗R3は22kΩにしました。お使いのカートリッジのメーカーが推奨する負荷抵抗値にすれば、メーカー仕様に近い周波数特性や歪み率、出力レベルの信号をOPA(オペアンプ)に入力できます。

コンデンサーC1~C2の耐圧は最低でも16V以上が必要です。コンデンサーC3~C6は耐電圧25V以上のオーディオ用を推奨します。双極性と呼ばれる負電圧に対応したコンデンサが良いでしょう。

下記は、フォノイコライザーの回路定数と時定数について、計算値、参考文献、製作品を整理した一覧表です。当初、46dB(入力5mVで出力1000mV@1kHz)を検討していましたが、参考文献と同じ40dB(同500mV@1kHz)で製作してみたところ、十分でした。

計算値
利得46dB
計算値
利得40dB
参考文献
利得40dB
製作品
利得40dB
R4338 kΩ304 kΩ270 kΩ270 kΩ
R1137.6 kΩ33.7 kΩ30 kΩ33 kΩ
C78.46 nF9.42 nF10 nF10 nF
R5170 Ω304 Ω270 Ω270 Ω
R62.27 kΩ2.27 kΩ2.2 kΩ2.2 kΩ
C833 nF33 nF33 nF33 nF
T13180 μs3180 μs3000 μs3030 μs
T2318 μs318 μs300 μs330 μs
T375 μs75 μs72.6 μs72.6 μs
低音
Gain
66dB60dB60 dB60 dB
フォノイコライザーの回路定数と時定数について、計算値、参考文献、製作品を整理

RIAAフォノイコライザの製作例

下図は実際に製作した RIAA フォノイコライザーの回路基板です。写真の右側が入力、左側が出力です。ポリカーボネート製のケースに固定しました。

製作した RIAA フォノイコライザの回路基板の一例

定数部は差し替え可能に

製作後も利得やフィルター特性を調整したかったので、フィルター定数部は差し替えれるようにしました。

基板側にはICソケットを実装し、回路定数は下図のように製作します。これらの部品の基板への半田付けが不要になるので、半田付けを失敗するリスクも下がります。

利得やフィルタ特性の調整が出来るように、フィルタ部は差し替えれるようにした

隣接するフィルター定数部品がショートしないように、ポリイミドテープなどで絶縁してから、ICソケットに接続します。

隣接するフィルタ定数部品がショートしないように、ポリイミドテープなどで絶縁してから、ICソケットに接続した

GNDとアースがややこしい

筆者にとっても、ややこしいGNDアースの話です。自分の備忘録として、必要な情報を以下にまとめました。

カートリッジとヘッドシェルのGND(アース)

レコード用カードリッジの多くは、下図のようにRch側の負極がカードリッジのGNDに接続されています。しかし、カードリッジのGNDは、ヘッドシェルのGNDとは直接は繋がっていません。フォノイコライザー部の0V電位を経由して繋がっています。これは、GNDの配線をループさせないための設計です。

カードリッジのGNDは、ヘッドシェルのGNDとは直接は繋がっておらず、フォノイコライザ-部の0V電位を経由して繋げる

レコードプレーヤのGND端子(アース端子)

厄介なのはレコードプレーヤーのGND端子です。一般的に、このGND端子は、トーンアームとヘッドシェルのGNDに接続されています。トーンアームやヘッドシェル、オーディオ信号ケーブルにはハム音(AC電源の50~60Hzの周波数やその高調波)の原因となる電流が流れますが、そのハム音がフォノイコライザーに混入しないための対策用です。

アース端子とも呼びますが、洗濯機などの漏電対策用のアース端子とは異なる端子です。一般的なレコードプレーヤーの場合、大地のアースに接続する必要はありません。本稿では、混同しないようにGND端子と呼ぶようにします。ケーブルについては、商品名として使用されている「アース付きケーブル」と呼びます。

レコードプレーヤのGND端子は、トーンアームとヘッドシェルの金属筐体のGNDに接続されているハム音の対策用

古いレコードプレーヤのGND端子(アース端子)

フォノイコライザーを内蔵していない古いレコードプレーヤーの場合は、GND端子をフォノイコライザ-に接続してください。

古いレコードプレーヤの場合はGND端子を使用する

レコードプレーヤーに、ピンジャックとGND端子付きのケーブルが直付けされている場合は、フォノイコライザの回路図の▽(逆三角マーク)の0V電位部に接続します。

直付けでは無いタイプの場合は、レコードプレーヤーに付属のGNDケーブル(Phonoアース線ともいう)、もしくはオーディオ信号ケーブルにGND用コードが一体化した「アース付きオーディオ信号ケーブル」を使用します。これらのGNDケーブルを使って、レコードプレーヤーのGND端子とフォノイコライザーの回路図の▽(逆三角マーク)の0V電位部を接続してください。

純正のケーブルや一体化したGNDケーブルが無い場合は、注意が必要です。通常のオーディオ信号ケーブルと同じくらいの長さのGNDケーブルを、なるべくオーディオ信号ケーブルから離れないように配線してください。同じ長さ、かつ同じ経路にするのは、両配線に同一の外来ノイズが乗るようにするための工夫です。同じレベルで同じ位相のノイズは、フォノイコライザーの入力部で相殺されます。

フォノイコライザ内蔵レコードプレーヤのGND端子(アース端子)

フォノイコライザーを内蔵しているレコードプレーヤーの場合は、GND接続の方法が明確ではありません。多くの場合、GND端子の接続は不要です。但し、レコードプレーヤーにアース端子つきのケーブルが付属している場合は、前述の古いレコードプレーヤーと同じようにGND端子を接続します。

下図のように、ヘッドシェルとトーンアームは、すでにレコードプレーヤー内のフォノイコライザーの0V電位部に接続されています。このため、オーディオ信号ケーブルの外部導体をフォノイコライザーの0Vに接続することでGND接続が兼用されます。この状態でGNDケーブルを使うと、2本のGND線がループし、かえってハム音を拾いやすくしてしまうことがあります。

古いレコードプレーヤーと現行のフォノイコライザ内蔵レコードプレーヤーのPHONO出力の回路図(右チャンネルRchについて説明)

上図の2つの回路図のうち、上側の回路図は古いレコードプレーヤー、下側は現行のフォノイコライザー内蔵レコードプレーヤー(PHONO出力)です。

下側の現行のレコードプレーヤーは、内蔵フォノイコライザーによって、ヘッドシェルのトーンアームGNDがオーディオ信号用のGNDに接続されています。このため、基本的にはGND端子の接続が不要です。同じ長さ、かつ同じ経路のGNDケーブルであれば、接続しても大丈夫です。あるいは切り替えスイッチでGNDを切断するプレーヤーの場合は、アース付きオーディオ信号ケーブルによるGND接続が必要です。

OPA(オペアンプ)のDCオフセット電圧

OPA(オペアンプ)には、DCオフセット電圧が発生する場合があります。DCオフセット電圧とは、無入力時に本来であれば0Vを出力するはずなのに、0V以外のDC電圧が出力してしまう現象です。

データシート上のDCオフセット電圧の標準値は入力で0.3mVです。出力に換算すると0.3V程度で、ほとんど影響しません。しかし、最大値は3mV、出力換算3Vと高くなります。3VものDCオフセットが発生すると、OPAの動作範囲が狭くなるので、オーディオ信号の歪みの原因となります。

出力DCオフセット電圧を測定するには、下図のように本回路の入力を短絡し、OPAの出力の電圧をテスターなどで測ります。

出力DCオフセット電圧は、本回路の入力を短絡し、OPAの出力の電圧をテスターなどで測る

測定した出力DCオフセット電圧が、ACアダプタ電圧15Vの1/10以内、すなわち±0.75V以内であれば、あまり問題ないでしょう。ただし、9VのACアダプタを使用する場合は、±0.45V以内が求められます。データシート上の標準値と同程度なので調整したほうが良いでしょう。

DCオフセット電圧を調整するには、全体の回路図に書かれている電源部の分割抵抗4.7kΩ(R1とR2)を微調整します。手持ちの4.7kΩの抵抗の個体ばらつきを利用して調整するか、100kΩ以上の抵抗器をR1またはR2のどちらか一方に並列に接続するなどの方法があります。

接続を完了してから電源を入れ、試聴してみよう

電源部には、DCジャックを使用し、ACアダプターから DC 15V を供給します。15VのACアダプターが無い場合は12Vや9Vでも動作します。電圧を下げると低音で歪む可能性があります。

DC 15V または12V、9VのACアダプターで動作する

写真では見えにくいですが、DCジャックにはポリスイッチ100mAと、電源に対して並列に1000μF/16Vの電解コンデンサーを追加しています。

製作した RIAA フォノイコライザの完成例

上図の赤白のピンプラグつきケーブルは、レコードプレーヤーの出力に接続するフォノ入力です。製作品ならびにレコードプレーヤのACアダプタを抜いた状態で、レコードプレーヤーの出力をPHONOに切り替えてから、接続してください。

レコードプレーヤの出力を「PHONO」に切り替える

ポリカーボネート製のケースに取り付けたピンジャックは、本フォノイコライザーのオーディオ出力です。電源を切った状態でアンプに接続してください。

通電する際は、必ずケースのカバーを閉じ、カバーが容易に開かないようにポリイミドテープやシリコン製の輪ゴムなどで補強します。回路が発熱しても外れないような材質を使用してください(セロテープやゴム製品は厳禁)。

ケースのカバーを閉じ、ポリイミドテープやシリコン製の輪ゴムなどで補強した

ハイファイ対応オペアンプ MUSES 8920

秋月 AE-KIT45-HPA に付属する NJM4558DD はオーディオ用オペアンプとして十分な性能があります。それでも、さらに高音質化を図りたい場合は、ハイファイ・オーディオ用オペアンプ MUSES 8920 に差し替えると良いでしょう。 NJM4558DD に比べ、低雑音かつ高スルーレートなので、より忠実に原音を再現できます。

オペアンプをNJM4558DD (左)から、MUSES 8920 (右)に変更することで、低雑音化、高スルーレート化が図れる

似たような MUSES 8820も売られていますが、 MUSES 8920 のスルーレートは5倍も勝っています。また、MMカートリッジ高いインピーダンスを受けるには、 MUSES 8920 のJ-FET入力が適してると思います。

ハイファイ・オーディオ用オペアンプ MUSES 8920 に差し替えた

ハイレゾ対応方法

最後にハイレゾ対応の実験を行ってみましょう。ここでは、R6と平行に1nFのコンデンサを追加し、周波数70kHzの減衰量を約6dBだけ控えるようにしました。

効果が足りないときは、コンデンサーの容量を増やしてください。増やし過ぎると20kHz以下の周波数特性に影響します。

ハイレゾ対応の RIAA フィルタの一例
秋月電子通商のWebサイトから転用した回路図に改造ポイントを追加
https://akizukidenshi.com/catalog/g/g112309/

定数部のパーツは下図のようにしました。ただし、このままではケースの蓋が閉まらなかったので、ケースの蓋を開けたまま動作確認しました。

ハイレゾ対応するための定数部

なお、「ハイレゾ」とはサンプリング周波数48kHzを超えるデジタルオーディオに対応した機器に使用します。サンプリング周波数48kHzに相当する周波数帯域は24kHzまでです。したがって、本稿では25kHz以上の再生能力をハイレゾと呼んでいます。

追加したコンデンサ1nFは、下図のようにハイレゾ領域でRIAAカーブを緩和するように作用します。他要因で減衰した、ハイレゾ領域のオーディオ信号を増幅することが目的です。

追加したコンデンサ1nFは、ハイレゾ領域でRIAAカーブを緩和するように作用する

コラム:聴覚で認識できる周波数は約16kHz以下

ハイレゾでなくても、一般的なハイファイ対応オーディオ機器には20kHzまでの再生能力があります。また、聴覚で認識できる周波数は約16kHz以下です。では、なぜハイレゾ対応が必要なのでしょうか?

アナログ機器の場合は、20kHz以上に対応することで16kHzまでの信号をより忠実に表現する効果があります。可聴範囲の16kHzからの周波数の違いをdBで示すと、20kHzだと約1dBのマージンしかありません。25kHzになると約2dB、45kHzだと約4.5dBです。マージンをより多くもつことで、16kHzまでの信号のレベルだけではなく位相も正確に再現できるようになります。
また、16kHz以上の高調波成分が含まれた音(但し、基音は16kHz未満)を脳内で認識する能力があるとも言われています。

一般的なハイファイ対応オーディオ機器は可聴域をカバーしているのに、なぜハイレゾ対応が必要なのか

ハイレゾ対応レコード針

レコード針には、シバタ針やラインコンタクト針、マイクロリニア針、無垢針などを使用します。

シバタ針などは、針の先端がレコードの溝の断面形状に沿って線上に接触するので、接触点の摩擦を低減できます。また、無垢針はチップを細く小さく作ることができるので、信号トレース時の負荷が減ります。このため、これらの針は、高い周波数まで再現できます。

下図は JICO 製のシバタ接合針 88-880 の顕微鏡写真です。シバタ針の中では最も安価な製品です(¥15,180円・執筆時点)。無垢針ではありませんが、25kHz程度までの再生が可能です。

JICO 製の シバタ接合針 88-880 の顕微鏡写真。接合針ではあるが、丸針の外形を維持したまま平面に研磨されている

上図の左側の写真は接合丸針のように見えます。しかし、中央と右側の写真を見ると、レコードの溝の進行方向が、2つの平面で研磨されていることが分かります。楕円針に比べ、研磨の正確性が求められる製品です。

カートリッジは audio-technica 製 AT-15Sa を使用しました。純正の交換針 ATN-15Sa は50kHzまで対応しています。しかし、純正交換針は既に製造を終了しているので、入手困難です。

JICO製のシバタ接合針を装着した audio-technica 製 AT-15Sa

抵抗R4に対して並列に追加したハイレゾ対応用コンデンサーは、RIAAカーブの減衰よりも2.5dBほど緩和させることができます(周波数25kHzにおいて)。このコンデンサーの片側の足をスイッチのようにON/OFFさせることで、比較試聴してみました。

ハイレゾ対応のスイッチをON/OFFしながら比較試聴を行う
秋月電子通商のWebサイトから転用した回路図に改造ポイントを追加
https://akizukidenshi.com/catalog/g/g112309/

当初、聞き当たりには全く差を感じませんでした。しばらく切り替えながら聴いていると、ハイレゾ対応回路の方が、高音の残響音の響きが滑らかに感じることがありました。筆者の聴力では、残響が残っている瞬間に切り替えないと差が分からないレベルでした。

周波数帯域が45kHzまで伸びている Denon DL-110 であれば、より明確に差が感じられるかもしれません。強力な磁石を搭載しているので、より細かな針の動きを取り出すことができます。

電源電圧と歪み率

下図は、電源30V(±15V)で動作させたときの全高調波歪み率特性です。NJM4558DD の特性が公開されていなかったので、MUSES 8920 のデータシートから引用しました。

電源電圧は、歪み率に影響します。

MUSES 8920 を 電源30V(±15V)で動作させたときの全高調波歪み率特性
(MUSES8920データシート Ver.2011-12-13, 新日本無線より引用)

上図より、出力電圧9VRMS以上で歪み率が悪化していることが分かります。したがって、電源15V(±7.5V)で使用した場合は、出力4.5VRMSまでであることが推測できます。

次に、耐入力電圧を推測してみます。本アンプの設計利得は60dB、すなわち1000倍なので、耐入力電圧は以下のようになります。

耐入力電圧=4.5 VRMS ÷ 1000 = 4.5 mVRMS

本回路の場合はローパス型のアクティブフィルターになっています。このため、上記は低音領域での耐入力電圧となります。

一方、周波数が上がるほどOPA(オペアンプ)の利得が下がり、その分だけ耐入力電圧も上がります。ただし、OPAの後段のパッシブフィルターによる減衰分は上がらない点に注意が必要です。

例えば、1kHzの場合、RIAAカーブの減衰量は -20dB なので、利得は 60dB – 20dB = 40dB です。また、2.2kΩと33nFのパッシブフルタの減衰量は、位相による相互作用を無視すれば約 +3dB なので、OPAの利得は43dB付近と推測でき、耐入力電圧は 30 mVRMS付近と推測できます。

以上から、電源電圧は15Vで十分であり、9Vの場合は低音の歪みには影響するものの、1kHz以上の高音には影響しないことが分かります。

[ご注意]定数部は固定してください

本稿で作成した RIAA フォノイコライザーの定数部は、外れやすい構造になっています。使用中は回路基板から目を離さないようにしてください。実験を終えて実際に使用する段階では、半田付けするか接着剤で固定する必要があります。部品が外れて回路の短絡が発生すると、火災の原因になる場合があるので十分に注意してください。なお、本稿に記載した情報によって何らかの損害が発生したとしても、筆者は一切の責任を負いません。

[ご注意]回路の発振や入力の開放に注意してください

本回路の入力に何も接続しない状態で電源を入れると、アンプの耐入力を上回る出力が発生します。アンプの電源を切っていてもアンプが壊れる可能性も考えられます。カートリッジの交換時は、必ず本回路の電源を切ってください。

また、本回路の場合は、電源投入時や停止時ポップ音が発生しにくい設計(±電源を均等供給)になっているものの、本機の電源操作をするときは、アンプの音量を最小まで下げておいてください。

[ご注意]燃えにくく溶けにくい材料を使用する

収容用のケースや固定用テープ、補助固定用の輪ゴムなどの材料に注意してください。本稿では燃えにくいポリカーボネート製のケース、耐熱性の高いポリイミドテープやシリコン製の輪ゴム(ゴムではない)を使用しました。

by bokunimo.net

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