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CZ-800/PT01-RS互換レコード針
CZ-800は日本のメーカー CHUDEN (旧CHUO DENSHI・中央電子工業・群馬県)が製造していたサファイア針(またはルビー針)とセラミックセンサを使用したレコード用カードリッジです。本品やその互換品が ION AUDIO などのレコードプレーヤーに採用されています。

また、互換の交換針が $1 程度で売られています。レコード再生時のランニングコストが低い点もメリットです。
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セラミックカートリッジの課題
CZ-800 は、一般的なコイルを使った MM駆動やMC駆動とは異なり、セラミックの圧電センサーを採用しています。しかし、出力レベルや周波数特性が異なるので、通常のフォノイコライザーが使用できません。
そこで本稿では、 CZ-800 互換カートリッジを使って、通常のレコードプレーヤーで再生するための回路を追加し、その特性を確認してみます。

CZ-800の特徴
CZ-800 は、主にスピーカー内蔵のポータブル型レコードプレーヤーに採用されていました。最近まで日本国内で生産されていましたが、生産終了となりました。現在は他メーカが互換品を生産しています。本稿では互換品を使用します。
元々 CZ-800 はポータブル機器向けです。周波数特性は100Hz~10kHz程度と、一般的なハイファイオーディオ用の20Hz~20kHzよりも狭くなっています。
レコード針 | 周波数特性 |
ハイファイオーディオ用 | 20Hz~20kHz (一例) |
CZ-800/PT01-RS用 | 100Hz~10kHz |
針先のチップにはサファイア/ルビーを使用しています。サファイア/ルビーは、ダイヤモンドの約1/3の硬度です。硬度が低いので耐摩耗性能は下がります。その代わりに衝撃に強い利点があります。
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レコード盤に汚れやホコリ、キズが無い場合は、ダイヤモンド針のほうが長寿命です。しかし、ダイヤモンドは固いゆえに欠けやすい欠点があります。
サファイア/ルビー針には、針先が欠けにくい特長があります。中古品などで購入したレコード盤や、回転数の早いシングル盤を再生する場合などに活かせるでしょう。
純正品と互換品の違い
CZ-800 純正交換針 CZ-10S2 (下図の左) や PT01-RS (PT01-RS 1個入り)、 PT01-RS2 (PT01-RS 2個入り) のカンチレバーはプラスチック製です。一方、$1の互換品(右)にはアルミニウム製のカンチレバーが採用されています。互換品は安い上に見た目も良いのです。
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CZ-800 純正交換針 CZ-10S2 (下図の左)には太く短いサファイア/ルビー針が採用されています。また、針の先端が尖っています。仕様上はR=0.7milのようですが、目分量でR=0.5mil程度に見えます。なお、一般的なダイヤモンド針はR=0.6milです。
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一方、互換品(上図・右)の円柱部は細く長いです。純正品よりも先端に丸みがあります。目分量でR=0.7milくらいです(一例)。
他にも違いがあります。純正品はカートリッジの内側に10°程度傾くように針が取り付けられています。理由は不明ですが、考察を後述します。互換品は垂直です。
ユニバーサルカートリッジに対応する
出力レベルと周波数特性を調整し、一般的なレコードプレーヤーに取り付けれるように改造してみました。カートリッジにはCZ-800の互換品を使用しました。下図は改造例です。
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カートリッジの構造
CZ-800 およびその互換品の構造について説明します。これらのカートリッジのカンチレバーの中央付近にゴム状のダンパーが取り付けられているのが分かります。このダンパーは、カートリッジの中にある圧電センサに接触しています。
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回路を追加する
下図は、CZ-800の互換カートリッジ内の回路図(推測)と、追加する回路の一例です。470pFのコンデンサと820kΩの抵抗を直列に入れ、4.7kΩの負荷抵抗で製作します。

サファイア/ルビー針(上図・左・図中 Ruby Styrus)の振動は、カンチレバーとダンパーを通して、セラミックの圧電センサに伝えられます。そして、セラミックセンサは、振動を電気信号に変換します。とても安価な製造が可能です。
今回、追加したコンデンサは、410HzのハイパスフィルターHPFとして作用します。これはフォノイコライザ-による低音増幅分を予め減衰させておくためのフィルターです。
追加した抵抗器は45dBの信号減衰器(約1/180)として作用します。出力電圧が高く、出力インピーダンスも高い圧電センサを、MMカートリッジと同レベル(1~5mV)に合わせるために必要です。

防振ゴムシートで高さを調整する
CZ-800 互換カートリッジは、ポータブル向けに高さが抑えられています。ユニバーサルカートリッジに取り付けると高さが合いません。そこで、防振ゴムシートで高さを調整しました。ゴムシートは、トーンアームからの振動音を抑える効果もあります。

筆者は純正品と同じ角度にするために、やや斜めに取り付けました(約10°)。音質が劣化する懸念はあるものの、純正品がサファイア/ルビーの特長を活かすために付与した角度の可能性もあります。今回は、その可能性の方を選択しました。

針圧を高める
本カートリッジの推奨針圧は4g~6gです。しかし、カートリッジが軽いので、一般的なプレーヤーだと十分な針圧がかけれない場合があります。そこで、回路部品の落下対策を兼ねて、ホットメルト接着剤を充填しました。

レコード盤やレコード針の消耗を考慮し、針圧は5g未満、一例として3g~4g程度にすると良いでしょう。
なお、MMやMCカートリッジでは推奨針圧の範囲外になると磁石とコイルが接触してしまう懸念があります。しかし、セラミックセンサの場合はそのような懸念がありません。したがって、針飛びや音割れの少ない範囲で、なるべく低めの針圧を設定すれば良いでしょう。
周波数特性の測定結果
下図の赤色のグラフ(Ruby-Ceramic)は、簡易測定による周波数特性の一例です。比較のために ATN3600L の測定結果を青色で示しました。それぞれの測定値は筆者が使用している別のカートリッジ AT-VM95ML を基準とした相対値(目安値)です。
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CZ-800 互換カートリッジ(上図Ruby-Ceramic)は、明らかにATN3600Lよりも劣っています。高音は、7kHz付近から徐々に減衰し、10kHzでは約12dBの減衰がありました。
ATN3600Lのようなハイファイオーディオ向けレコード針に比べると不十分です。実際に音質も悪いです。とはいえ、ピアノの音域が4.186kHzまでなので、音楽を楽しむことは可能です。
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なお、本来よりもやや帯域が狭くなっているかもしれません。純正品に合わせて、針を約10°、傾けているからです。
針の傾きについての考察
前述のとおり、 CZ-800 の純正品 CZ-10S2 の場合は、約10°傾くように針が取り付けてあります。また、針の先端の見た目はR=0.5mil程度に尖っています。さらに仕様はR=0.7milと異なります。これらの理由について考えてみます。
下図の左側は CZ-800 の純正サファイア/ルビー針 CZ-10S2 です。右側は一般的なダイヤモンド針の例です。
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先端を尖らせて斜めにすることで、レコードとの接触部分の面積や体積が増えます。これにより摩擦熱の低減を図っていた可能性が考えられます。また、仕様のR=0.7milは、斜めになっていることを考慮した実効値と考えられます。
次にチップの大半が円錐形になっている点から考えてみます。これは、針の振動を針全体に分散させる目的である可能性が考えられます。サファイア/ルビーは硬度が低いので、チップ内の応力の偏りが大きいとクラックの原因になるのかもしれません。針を傾けることで針が進行するときの応力の偏りを減らすことができます。
真相は不明です。個体差かもしれません。筆者のたわごとの可能性もあります。ご指摘があれば訂正します。
アナログの音の良さを楽しむ
アナログの良さを科学的に説明すると、信号の劣化要因がもたらす音の着色による高音質化であると、筆者は考えています。このため、針や信号変換部を変えれば、ダイヤモンド針のMM/MCカートリッジとは異なる味付けが施されると考えられます。
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サファイア/ルビーとセラミックの音色
前述のとおり、この針で高い音は出ません。聞きあたりはFMラジオや低ビットレートのオーディオのようにチープに感じます。とはいえ楽器の基音や基音の2倍の周波数の高調波は再生できます。音声専用の電話やAM放送とは全く異なります。ちゃんと音楽として聴くことができます。
歪み音は、常に生じています。このため、楽器や音数の多い楽曲は苦手です。主旋律がはっきりしている曲であれば、音色に深みを感じることができます。ボーカルの声や歌詞が心に直接届くような印象を受けました(筆者主観)。
試聴してみる
カントリー曲やフォーク曲に向いていると思います。そこで、カントリー・シンガーとしてデビューした超有名なアーチストの曲を聴いてみました。冒頭から美声が再現されました。また、コーラス部では感情の高まりを感じることができました。声の艶や残響は控え目です。その代わりに、楽曲に込められた表現が伝わってきます。時折、歪み音が気になることもありました。その反対に、暖かみや柔らかみのある心地よい歌声に聞こえることもありました(筆者主観)。
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カートリッジ本体の音色
耳を澄ますと、なぜか心地よい高い音が聞こえます。音量を下げてもしっかりと聞こえます。ふと音量を0にしてみると、まだ聞こえます。実は、スピーカからではなく、カートリッジ筐体が発する振動音でした。圧電素子に針の振動を伝える方式なので、カートリッジ筐体が振動してしまうのです。本来なら邪魔な音です。しかし、高音の出にくい本カートリッジにおいては、良い味付けになりました。この効果は、ION AUDIO のヒットに、少しだけ寄与しているかもしれません。
カートリッジ交換の楽しみ
ルビー&セラミックの音を聴き終えたら、通常のMM駆動のダイヤモンド針に戻してみましょう。比べてみると、ダイヤモンド針+MM駆動の音の良さが実感できると思います。これもカートリッジ交換の楽しみの一つです。
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なによりも交換針の値段が$1
タイトルにも書いたように CZ-800 用の互換交換針は $1 です。ハイファイオーディオ用の交換針 ATN3600L だと、定価が\3,300円、実売\2,150円です。15~20個くらい買えます。
この割安感は、レコードを一生懸命聴くことから開放してくれます。ながら聴きに良いのです。たとえ演奏が終了し、レコードが回り続けていても、レコード針の摩耗を気にしなくて済みます。針をレコード盤に下すときに、レコード盤の端で滑り落ちても、全然、気になりません。
丈夫で、しかも安いサファイア/ルビー&セラミック駆動のおかげです。

カートリッジとセットで$2
製作にはカートリッジも必要です。CZ-800/PT01-RS2互換カートリッジと交換針のセットで$2程度~で売られています。
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専用レコードプレーヤーも
ION AUDIO をはじめ、多くのメーカーから CZ-800 やその互換カートリッジを搭載したレコードプレーヤーが販売されています。価格は1万円程度です。
例えばオンキヨー製 OCPN-01S は、かつての古いロゴマークを使用したスタイリッシュなデザインの両サイドにスピーカーを搭載しています。スピーカーの配置は10kHzまでしか再生できないことやカートリッジ本体の振動音を考慮した音づくりかもしれません(未確認)。
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CZ-800/PT01-RS仕様
ネット検索にて仕様を整理しました。出典によって条件や仕様値が異なっていましたが、ION Archive LP の説明書や、通販サイト、アーカイブサイト等に記載されている仕様を参考に総合的に正しそうな値を掲載します。
項目 | 仕様(CZ-800/PT01-RS) |
カートリッジタイプ | セラミック |
針先 | 0.7 mil 円錐 サファイヤ針(PT01RS1) |
針圧 | 3~5g @規定なし 4~6g @プレーヤ側 |
出力 | 140〜280mV @規定なし 200~300mV @3.5 cm/sec 400mV @5cm/sec |
チャンネルバランス | 3 dB 以下 2.5 dB @1kHz |
チャンネルセパレート | 15 dB 以上 @規定なし 32 dB 以上 @1kHz以上 |
周波数特性 | 80~10kHz (±7dB) |
まとめ
ルビー/サファイヤ針&セラミックカートリッジを使えば、通常のダイヤモンド針&MM駆動カートリッジとは違う音色や、アナログ独特の音色を楽しむことができます。しかし、レコード本来の音を高音質で楽しむ用途には向いていません。
つまり、ユニバーサルヘッドシェルで交換しながらその違いを聴き分ける楽しみ方が、現代の CZ-800/PT01-RS や互換品の役割なのではないでしょうか。
- ポータブル機器向けに開発された国産技術
- スピーカー内蔵タイプに搭載されていることが多い
- 針先の硬度が低いので衝撃に強い(欠けにくい)
- コイルのような巻き線が無いので耐久性が高い
- 互換交換針が最安で$0.98(約140円)から販売されている
- フォノイコライザが不要
- アナログ特有の音色が楽しめる
- 古いレコード盤のバックアップに向いている
- レコードの仕組みの学習用に向いてる(自作キット用)
- DJ用(練習用~耐衝撃性を活かした特殊プレイ用)
- 日本製ダイヤモンド交換針も存在する
by bokunimo.net
「格安$1の CZ-800互換 PT01-RS レコード針でルビー&セラミックの音色を楽しむ」への3件の返信
Mtone様より、この記事を使った製品の販売について相談がありました。
しかし、価格面から見送ることになったので、当方が回答した内容の抜粋と掲載許可を得た情報を公開いたします。
同様の検討をされているかたも、ぜひ本ブログの情報を活用いただければと思います。
部品リスト(当方とMtone様が共同で作成)

試作品1 ヘッドシェルつきプロトタイプ(Mtone様ご提供)

[…] 前回のブログページ:https://bokunimo.net/blog/audio/5361/ […]
Klausmannさん(スイス)からルビー針の残留物に関するコメントをいただきました。再生時に摩耗したルビーの残骸がレコードの溝に蓄積されることがあるそうです。このため、再生後はしっかりとレコードの清掃を行うことが推奨されるとのことです。
ボクも同意見です。
ルビー、ダイヤモンドに関わらず、再生後にレコードの清掃を行うことを推奨します(https://bokunimo.net/blog/audio/4586/#%E3%83%AC%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%89%E7%9B%A4%E3%81%AE%E3%81%8A%E6%89%8B%E5%85%A5%E3%82%8C)。
ただし、摩耗による残骸は非常に小さなものと考えられます。再生の度にベルベットで清掃していれば、過剰に心配する必要はないと思います。