目次
1章. 概要
ION AUDIO Vinyl Transport は、アナログ独特の音色を手軽に楽しむことができる人気商品です。しかし、ハイファイオーディオ用の本格的なレコードプレーヤーやデジタルオーディオ機器にに比べると、音質が劣ります。そこで、本機を改造してハイファイオーディオ機器並みの高音質に挑戦してみました。

本ブログでは、以下の改善方法について説明します。
- スピーカーの交換
- RIAA フォノイコライザーの追加
- パワーアンプの交換
- レコード針とカートリッジの交換
2章. 回路による音質改善
はじめに本章では、上記の1~3を説明します。これらは半田付け作業をともないます。次の章では、上記4の「レコード針とカートリッジの交換」について説明します。こちらはプラスチック等の加工作業を伴います。

スピーカーの交換
もっとも手軽なアップグレード方法は、スピーカーの交換です。本体を分解し、内部のスピーカーを取り外し、新しいスピーカーに入れ替えます。ただし、スピーカーのコードは内部で半田付けされているので、半田付け作業が必要です。

下図はION AUDIO Vinyl Transport 内臓のスピーカーです。直径28mmの小型のスピーカーユニットが、左右に2個、入っています。

付属スピーカーは4Ω2Wです。4Ω~8Ω、2W~4W程度のものの中から、4cm以下のものを選定します。4cmのスピーカーを使用した場合、振動版の面積は2倍になります。このため、多くの場合、低音が出やすくなると思います。
下図は4cmスピーカーの組み込み例です。ユニットそのものは1cmほどしか増えないので、工夫すれば組み込めるでしょう。

スピーカーの振動版の背面から前面への音漏れを防ぐには、ユニットのフレームをボンドなどで隙間なく埋めます。カバーを閉じたときの音量や音質が向上します。
フォノイコライザーの追加
スピーカーを交換しても、まだ低音に物足りなさを感じると思います。ION AUDIO Vinyl Transport には、RIAA フォノイコライザーが搭載されていないからです。試しにRCAジャック(本機の背面のオーディオ出力)をオーディオ機器に接続してみると、低音が出ていないことが確認できるでしょう。
そこで、本稿では下記のブログで紹介した、RIAA フォノイコライザーを追加します。
カートリッジからの信号線は、下図の左側のフォノイコライザーに入力します。また、フォノイコライザーの出力は本機背面のRCAオーディオ出力端子に接続しました。詳細は後述します。

パワーアンプの交換
ION AUDIO Vinyl Transport には、オーディオ用パワーアンプ LM4863 の互換品 CS4863 が搭載されています。LM4863 は古くから小型スピーカーを高音質に駆動する定番のアナログ・アンプです。D級アンプと比べてアナログ感は味わえるものの、電源や音量によっては歪やすいことがあります。そこで、PAM8403 というD級アンプに交換してみました。

PAM8403 の音質については、下記を参照してください。
秋月で売られているD級オーディオアンプ3種類を簡易測定で比較してみた-PAM8403 (bokunimo.net)
秋月で売られている高音質D級オーディオ・アンプ4種類をコンポ用スピーカに接続して、比較してみた-PAM8012、PAM8403 (bokunimo.net)
交換といってもピン配列や周辺回路が異なるので、PAM8403 搭載のパワーアンプ基板を追加します。下図の中央やや左の基板が追加したパワーアンプ基板です。左側は本機のメイン基板です。

元のメイン基板に実装されていた パワーアンプ CS4863 は下図のように取り外し、ピンソケットに変更しました。

接続方法については、以下の次節で説明します。
改良前の回路ブロック図
下図は改良前の ION AUDIO Vinyl Transport のブロック図です。中央のメイン基板には、リアパネル基板、モーター基板、スピーカーがケーブルで接続されています。電源は5V 1Aです。

改良後の接続ブロック図
次に、改良のために追加した基板を含むブロック図です。

回路追加方法
メイン基板のJ2に接続されているフォノカートリッジの出力コネクタを切断し、そのコネクタを自作RIAAフォノイコライザー基板のフォノ入力に接続します。
フォノイコライザーの電源はノイズに弱いので、LDOなどでフィルタしてから供給します。下図はメイン基板の9VからLDOで8Vに変換し、フォノイコライザーに±4Vを入力する一例です。
LDOのGNDを-4Vとして使用するので、フォノイコライザーのGND出力にはDCカットコンデンサが必要です。本例では、双極性電解コンデンサ100uF/16Vを使用しました。

フォノイコライザーの出力は、DCカット後に可変抵抗を経由してパワーアンプ基板に入力します。
メイン基板の可変抵抗やコネクタJ1を使用する場合は、R18とR19(4.7kΩ)、CS4863を外してメイン基板上のヘッドアンプとの干渉を防止してください。

パワーアンプ部には5Vの電源と、シャットダウン信号を供給します。シャットダウン信号は、PAM8403 のJ2の中央のピンです。ただし、モーター基板は9.5V動作、PAM8403の信号電圧は5Vなので、抵抗を使って1/2に分圧してください。筆者は2.2kΩの抵抗を2つ使用しました。

スピーカーはパワーアンプ基板のスピーカー出力に接続します。
3章. レコード針の交換による音質改善
これまでの改造は序章にすぎません。最も高音質化に貢献するのが、レコード針とカートリッジです。
本章では、今回のメインとなるカートリッジ部の改造について説明します。

サファイヤからダイヤモンドに変更する
ION AUDIO Vinyl Transport には、CHUDEN CZ-800 の互換品が搭載されていますが、 CZ-800 はサファイヤを使ったセラミック駆動方式です。今回は、audio-technica 製 AT3600L (交換針はATN3600L)に変更してみました。

すでに交換針 ATN3600L の生産を終了していますが、後継品 ATN3600LE や互換品が売られており、近年、ダイヤモンド針としては最も多く利用されていると思います。

トーンアームに重り(ウエイト)を追加する
しかし、カートリッジの質量が約2g増え、針圧が約8gになります。そこで、トーンアームの後方に重り(ウェイト)を追加して加重します。目標針圧は約4gです。
下図のように可動部の邪魔にならないスペースに金属を埋めてゆきます。筆者は鉛板を使用しました。鉛には毒性があるので、取り扱いや廃棄方法について十分に注意してください。不正に廃棄してしまうと土壌が汚染され、それが飲料水や食品に交じり、やがて自分の口の中に戻ってきます。

外側にも金属を追加し、直接、手が金属に触れないよう、ポリイミドテープで保護しました。

ケースの蓋を閉じても再生できるギリギリまで加重します。
もともとの重り部の形状は、収納時や再生時にケースのカバーを閉じても、カバーに接触しないようになっています。このため、重りが後部に食み出すと、カバーに接触してしまいます。

上図は、閉じたカバーに接触しないギリギリを狙った一例です。しかし、目標針圧4gには達しませんでした。とはいえ、約3.6gの減量に成功し、針圧は約4.4g程度になりました。

4章. 改造結果
動作確認と再生方法
完成したら、電源がショートしていないかどうかをテスターで確認してから、ACアダプターを接続します。
レコード盤に針を乗せるには、リフターを使用します。下図の右上のレバーが、そのリフターです。
リフターでレコード針を浮かしたら、レコード針を再生開始位置まで移動させてください。再生開始位置は、リードイン部と呼ばれ、レコード外周の光沢のある部分です。リードイン部でリフターを下げると、再生を開始します。

もし、レコード盤が回転しない、音が出ないなどの異常があれば、すぐにACアダプターを抜いてください。
効果①歪音の低減と音域拡大
視聴してみたところ、同じレコード針 AT3600L を搭載する audio-technica AT-LP60X に近い音質に感じられました(筆者主観)。
下図は、改造後の ION AUDIO Vinyl Transport でLPレコードを視聴してみたときの様子です。

このLPは改造前の状態であっても、十分に高音質で聴けます。とはいえ、迫力のある部分に歪音があり、比較箇所が絞りやすかったので選定しました。改造後は、違和感が低減されました。ただし、ボーカルの明瞭さは改造前の方が好みでした。これは、改造によって音域が拡大し、低音や高音が明瞭になり、相対的にボーカルの音量が下がったためだと思います。その代わりに、楽曲の全体像にメリハリが得られるようになりました(筆者主観)。
効果②内周歪の低減
次に、レコードの特長として、内周に近づくにつれて、音が割れやすくなります。そこで、内周で顕著な音割れのあるレコードで確認してみました。多少の歪は感じられましたが、音が割れているということはなく、明確に改善していました(筆者主観)。

ハイファイ・オーディオ用レコードプレーヤー AT-LP60X とも比較しましたが、聞き分けれないレベルでした(筆者主観)。
消費電力
改良前後の消費電力を比較してみました。
State | Before | After | Unit |
Power SW OFF | < 1 | < 1 | mW |
Idle | 60 | 110 | mW |
Playing | 約1000 | 590 | mW |
表中の「Power SW OFF」はACアダプタを接続したときの消費電力です。どちらも1mW未満でした。
「Idle」は、トーンアームを固定する位置で、音量つまみで電源をONした状態です。改造後の「After」には、フォノイコライザの消費電力が含まれています。
「Playing」は45RPMでシングルレコードの再生中の消費電力です。モーターとパワーアンプの消費電力が加わります。D級パワーアンプを使用することで、消費電力を40%くらい削減できました。乾電池での駆動時間は、単純計算でも1.7倍、実際には少なくとも2倍以上の長時間再生ができると思います。なぜならば、消費電流が下がることで、電池の内部抵抗による電圧降下が抑えられるからです。

ワウフラッター
レコードの回転の安定性を示す指標がワウフラッターです。低下すると、音痴に聞こえる場合や、長音が波打って聞こえる場合があります。
本機の場合は全長38cmの短いベルトを使用しています。このため、ベルトの劣化によるワウフラッターの増加が目立ちます。しかも、新品であっても劣化している場合があるようです。船輸送時の温度変化や振動、輸送や在庫期間などが要因と思われます。
下図は折り曲げ長 19.2cm仕様の交換用ターンテーブル・ベルトです。全長は、ちょうど38.0cm※でした。
※19.2cm×2よりも短くなったので、3回以上、確認。

ワウフラッターは、プラッターやスピンドル、ドーナツ版アダプター、レコード盤などの精度や、電圧変動などで劣化します。また、本機の場合は、AUTO STOP 機能用のスイッチの接点が劣化すると、モーターの回転に影響を及ぼす可能性が考えられます(未確認)。
筆者の経験上、LP盤よりもシングル盤の方が聴覚へのワウフラッターを大きく感じます。それは本機以外でも同様です。ベルトの交換で改善しない場合は、LP盤で確認してみてください。
最後に
本記事は知人が改造したレコードプレーヤーに追加の改造を行って執筆にしたものです。アンプ部とスピーカ部は主に知人による改造です。一部、当方の改造も含みます。その他のフォノイコライザー、カートリッジ交換等は当方が実施した改造です。これらは読み手には不要な情報であるため、これらを区別せずに全て筆者が改造したような表現になっています。
by bokunimo.net