最大30W×2ch D級オーディオ・アンプIC TPA3118D2を使った超低価格アンプを製作してみた

市販オーディオ・アンプ機器でも使われているTI社 TPA3118Dを使って、本格的なアンプを製作してみました。実装部品は、全て、秋月で購入しました(基板を除く)。

はじめに

近隣の人が居ないなど、近所迷惑を気にせずに大音量で音楽を楽しむチャンスがやってきました。お盆の帰省で両隣が不在なのです。
これまでは5V動作のD級オーディオ・アンプを試してきました。USBから電源を供給できるほか、放熱板が無くても動作するので簡単に製作して、十分な音量と音質を楽しむことが出来ます。
ところが、隣の家まで響くほどの大音量を出すには、より大出力のアンプが必要になります。
そこで、今回はお盆休みを前に、大出力アンプの製作を行ってみました。

D級アンプの最大出力

D級アンプのおよその最大出力は、電源電圧をV(V)、負荷抵抗(スピーカのインピーダンス)R(Ω)、アンプ効率ηとすると、概ね下記で求まります。

最大出力(W)  PMAX = η・ V2/(2R)

多くのD級アンプはBTL方式(フルブリッジ方式)となっており、最大振幅は電源電圧の2倍です。したがって、電圧の実効値は2倍の電圧を2√2で除算した電圧V/√2となり、抵抗Rで除算すれば電力が得られます。

下表は、電源電圧を5V、12V、24V、負荷抵抗8Ω、6Ω、4Ωのときの計算例です。最右列は、効率η=90%としたときに最大出力となる電力(W)です。

例えば、電源電圧12V、負荷抵抗6Ωだと効率100%だと12Wの出力が得られますが、効率90%の場合、約10.8Wの出力であることが分かります。これら12Wと10.8Wの差1.2Wは熱となり、空気中に逃がす必要があるので放熱板が必要です。このため、12V動作のD級オーディオアンプの場合、5V動作のアンプよりも製作に手間がかかってしまいます。

TI社 TPA3118D2

TPA3118D2は、秋月電子通商などで購入できる30W×2chに対応したD級オーディオ・アンプICです(執筆時点・ディスコン在庫数A・単価170円)。5V~24V(最大26V)までの電源電圧に対応しています。今回は12V(10W前後・6Ω時)で動かしてみました。

D級オーディオ・アンプIC(執筆時点・ディスコン在庫数A・単価170円)

裏面には下図のような放熱用の電極があります。この電極を放熱することで、大出力アンプを製作することが出来ます。また、GNDに接続することで大電流による電圧降下を防ぐことが出来、歪み率を改善できる場合があります。

裏面には下図のような放熱用の電極がある。GND※に接続すると電圧降下を防ぐことも出来る

※本デバイスの場合

周辺回路を設計する

今回の回路設計例を下図に示します。当初、出力フィルタ部については、1チャンネル当たり2組のLC回路を構成していましたが、後述する不具合対策により、図のような1組の構成に変更しました。電圧利得は24dBを想定しましたが、4段階の6dB単位でしか設定できないので設定可能な26dBにしました。

全て秋月電子通商で購入可能(執筆時点)な部品で構成した(ピッチ変換基板を除く)

基板を製作する

5V動作のD級アンプでは、放熱板が無くても動作するものが多いですが、12V動作のD級アンプの場合は放熱が必要になります。下図は、ピッチ変換基板(サンハヤト製SSP61)に銅箔を貼り、また放熱用の電極を裏面から半田付けするための穴をあけた基板の製作例です。アンプICのピンのうちGNDに接続する端子は予め銅箔に半田付けしておきます。

放熱用の電極を裏面から半田付けするための穴をあけた基板の製作例。銅箔でGNDパターンを作っておく

この基板の銅箔部分に、金属ねじを取り付け、ケースのアルミに放熱する構造にしました。

下図は部品を実装した時の様子です(製作途中の写真)。
出力側(写真の右の方)にEMIフィルタを実装し、LCフィルタを別基板に実装しました。

ピッチ変換基板へ部品を実装した時の様子

放熱板

下図は、金属製のビスを使って、ピッチ変換基板と放熱用のアルミ板(84mm×55mm)に接続するイメージ図です。
銅製のビスを使えば、より熱抵抗を下げることが出来ます。

放熱の構造

アンプICとピッチ変換基板との熱抵抗を下げるには、予めアンプIC裏面の電極にリード線を半田付けしておき、そのリード線を下図のようにピッチ変換基板全体(端子部を除く)に貼った銅箔に半田付けします。写真の中央のリード線が、アンプICに半田付けしておいたリード線です。

予めアンプIC裏面の電極にリード線を半田付けしておき、そのリード線を銅箔に半田付けした

ケースに組み込む

下図はポリカーポネート(PC)のケースに組み込んだ時の様子です。写真の左側に映っている基板がアンプで、金属製のネジで裏面のアルミ板に接続し、使用時はアルミ板が上面になるように設置します。このため、スピーカ出力端子は下図の右側に左スピーカ、左側に右スピーカを接続するように配置しました。

シャットダウン方法

スイッチ付きの可変抵抗器を使用し、スリープ用のSDZ端子で電源を操作できるようにしてみました。FAULTZは異常時にLレベルを出力します。デジタル・トランジスタにはローム製DTA143(R1=4.7kΩ、R2=47kΩ)を使い、実力的には動作しましたが、仕様上はFAULTZのVOL(Max)=0.8、DTA143のVIL(MAX)=0.5で齟齬があります。また、秋月電子通商ではローム製に加えて、台湾UTC製の製品も販売されていますが、データシートを見ると内蔵抵抗の値がローム製とは異なるようです。

不具合対策

製作してみたところ、下記の2つの不具合があったので対策を行いました。

  • 無音にしても1Wの消費電力
  • EMIフィルタから振動音

無音にしても1Wの消費電力

原因はLCフィルタでした。近接する4つのコイルが結合し、高周波で発振してしまっていたようです。EMIからの振動音も、その発振による影響と思います。そこで、4つのLCフィルタのうち2つを廃止し、各チャンネル1つずつに変更しました。直列インダクタと並列コンデンサを下図を半分にするので、フィルタ定数を変更する必要はありません。

EMIフィルタから振動音

当初、EMIフィルタには村田製DSS1・1000pFを使用していました。上記の対策だけでも振動音は無くなるとは思いますが、大出力時に発生する可能性があるので、固有振動数を引き上げるためにDSS1・220pFに変更しました。

下図は、これらの対策後の写真です。中央の基板に実装していた4つのLCフィルタは2つになり、EMIフィルタの定数が変わりました(EMIフィルタの見た目は変わらない)。

EMIフィルタとフェライト・ビーズ

D級オーディオ・アンプICを使えば、少ない知識で高音質なオーディオ機器を製作することが出来ますが、高周波ノイズ(EMI)が大きい欠点があります。

アンプ出力のEMI対策は、前述のとおりEMIフィルタ(村田製DSS1・220pF)を用いましたが、このほかにもDCジャック(上の写真の右上)やオーディオ入力(同・右下)からも輻射するので、対策を行いました。

DCジャックにはEMIフィルタ+フェライト・ビーズを使ってプラス端子とマイナス端子の両方の輻射に対応しました。どちらか一方にEMIフィルタを入れ、他方にフェライト・ビーズを入れればよいでしょう。今回は、マイナス側に村田製EMIフィルタDSS6・0.022uFを、プラス側に村田製フェライト・ビーズBLM・330Ωを使用しました。フェライト・ビーズは、定格電流を優先して選定しました。

オーディオ・ジャックについては、村田製フェライト・ビーズBLM・330ΩをGNDに入れてみたところ、輻射ノイズがアンプの入力に回り込んでしまう不具合が生じました。このため、回路部品で対策を行うのを断念し、フェライト・コアを取り付けました。フェライトコアは、EMIフィルタやフェライト・ビーズに比べると効果は限定的です。

感想

歪むところまで音量を上げても、(音が大きすぎて)歪んでいるのかどうかが分かりませんでした。市販アンプのように使用することが出来そうです。

一方、製作の手間と不具合対策には5VのD級オーディオ・アンプの何倍もの手間がかかりました(のべ24時間)。それでも、コンパクトなサイズで、消費電力も少ない自作アンプで8W~10W×2の大音量アンプが製作できた点には満足です。

とはいえ、実際に鳴らしたのは実効電力で0.4W~0.5W×2くらいまでした。ピーク電力との差が10dBとしても最大定格出力5W×2のアンプ(電源電圧を逆算すると8.2V)で十分だと実感しました。

普段用:最大定格出力1.5Wで十分
お盆休み:4W~5Wで十分(製作品は8W~10W)

コンポ用アンプと自作アンプの設計例
https://bokunimo.net/blog/information/1800/

不具合の原因調査と対策で汚くなってしまった

不具合個所を特定するために、制御用の電圧を変更してみたり、対策部品を付けたり、あるいは外したりといったことを繰り返しているうちに、どんどん汚くなってしまいました。
しばらく問題がないことが確認できれば、ホットメルトで全て埋めてしまう予定です。

不具合の原因調査と対策で汚くなってしまった基板

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5VのD級アンプ(約8W)4種類を比較した記事です。

by bokunimo.net

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