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秋月で売られている高音質D級オーディオ・アンプ4種類をコンポ用スピーカに接続して、比較してみた

これまで紹介してきたD級オーディオ・アンプを、実際にコンポ用のスピーカに接続して、比較してみました。

これまで

下図のようなD級オーディオ・アンプを使用し、高音質なオーディオ機器を簡単に製作するブログ記事2本と、スピーカの簡易測定について説明してきました。

2種類のアンプを比較試聴しているときの様子

それぞれの記事は、下記をご覧ください。

実際のコンポ用スピーカに接続する

これまでの記事では、実際のスピーカではなく8Ωの負荷抵抗に接続して特性を確認してきました。ところが、実際のスピーカのインピーダンスは、周波数によって異なり、4Ω~50Ωくらいまで変化するので、負荷抵抗による特性と異なった結果になります。
そこで今回は、実際のコンポ用のスピーカに接続して、特性を確認してみました。筆者は、コンポ用スピーカを6組、保有していますが、大型のものは測定しにくいので、今回は小型スピーカの中から最も周波数特性が平坦なONKYO製D-102EXを使用しました。

簡易測定に使用した機器等

以下の機器等を使用しました。

  • 信号発生  日本コロンビア マイCDチェック CA-5006
  • スピーカ  ONKYO D-102EX
  • マイクロホン  primo EM158
  • スマホ  SHARP AQUOS Sense 3 plus
  • ソフト  Spectroid 1.1.1(Carl Reinke氏)

測定条件

測定時は、スピーカとマイクロホンの周囲から、反射物を遠ざける必要があります。目安として、スピーカとマイクロホンの距離の5倍、離すことで、反射波による影響度を1dB程度に抑えることが出来ます。スピーカとマイクの距離は、スピーカの大きさの3倍程度、離します。
大型のスピーカだと、こういった要件に合わせるのは、筆者のような一般の家庭では難しいです。今回は、小型スピーカを用い、ツイータ面から垂直に20cm離れた場所にマイクロホンを設置しました。経験上、家庭内での測定は20cm~30cm程度距離の場合に、再測定時の再現性が得られやすくなります。1m以上の距離で測る場合は、屋外で測るか、専用の設備(無響室)が必要でしょう。

信号発生にはオーディオ・チェック用CDを使用し、正弦波の周波数スイープ信号を出力しました。類似のCDは、秋月電子通商でも販売されています。
音量は、マイクロホンで約70dBの音圧が得られるように調節しました。正弦波の信号は、アンプやスピーカなどの機器や場合によっては聴覚を損傷させてしまうことがあるので、音量の上げ過ぎには十分に注意して下さい。

測定対象のアンプ

測定対象は、秋月で売られている4つのD級オーディオ・アンプです。詳細は、冒頭に記載したこれまでのブログ記事を参照ください。また、比較用に2台のアンプも用意しました。

  • AE-TPA2006
  • NJU8755
  • PAM8012
  • PAM8403
  • ONKYO A-905TX(比較用)
  • EK JAPAN TU-8100(比較用)

簡易測定による比較結果(スピーカ接続時)

以下にスピーカ接続時の比較結果を示します。筆者の聴感(主観)では、単一の歪み率で0.2%以上、合計0.5%以上で音に違いを感じたので、数字にマーカをつけました。ただし、特性はスピーカを含む簡易測定によるものにつき、各デバイスや機器の性能を示すものではありません。

デバイス・機器周波数特性歪み率(2次)歪み率(3次)歪み率(合計)
AE-TPA200680~20kHz0.09%0.06%0.15%
NJU875550~20kHz0.10%0.06%0.16%
PAM801250~20kHz0.08%0.05%0.13%
PAM840350~20kHz0.22%0.24%0.46%
A-905TX50~20kHz0.11%0.06%0.17%
TU-810060~20kHz0.22%0.10%0.32%

以下に、それぞれの測定結果の詳細を示します。

TPA2006、NJU8755

上図の左側は、TI製TPA2006を搭載した秋月電子通商製オーディオ・アンプ・モジュールAE-TPA2006を用いて製作したアンプを簡易測定した結果です。
周波数80Hz以下で減衰しているのは、入力回路のコンデンサが小さすぎるためです。2次高調波は歪み率0.09%程度でした。負荷抵抗を使った測定では3次高調波がありましたが、今回の条件(音量、インピーダンス)では、3次高調波が十分に抑えられていました。

右図のNJU8755は、日清紡マイクロデバイス製NJU8755を用いて製作したアンプです。
2次、3次の高調波は歪み率0.1%程度で合計0.2%になります。市販のコンポ用アンプ並みの特性と言えるでしょう。5次に0.1%程度の出力が観測されましたが、これは測定系(スマホ)で発生していたものです。

PAM8012、PAM8403

PAM8012も良好でした。最も高い2次高調波で0.08%でした。合計で0.13%程度と高音質です。しかも、電源投入時やOFF時のポップ・ノイズが十分に低減されている点でも、おすすめのアンプです。
一方、PAM8403は、大きな高調波が複数、観測され、合計0.5%以上あると思われます。スピーカから明らかな異音を発しており、コンポ用のスピーカに接続する用途には向かないでしょう。

ONKYO A-905TX(比較用・参考)

ONKYO A-905TXは、市販のミニコンポ(ハーフ・サイズ)用アンプです。
50Hz~20kHzまでフラットな特性であることが分かります。使用したスピーカ、マイクロホンおよびスマホのマイク・アンプの特性から50Hz以下に減衰が見られます。また、信号源が20kHzまでなので20kHz以上は測れません。
2次高調波が歪み率0.1%程度で発生していました。
測定結果は一例です。機材や設置環境はもちろん、スピーカ・ケーブルの種類、長さなども影響します。低周波数域では60HzにAC100Vの電源のノイズが混入しています。また、簡易測定につき、機器やデバイスの性能を示すことは出来ません(他の測定結果も同様)。

TU-8100(比較用・参考)

参考のため、オーディオ・アンプの原点である真空管アンプの特性も確認してみました。
イーケージャパン製TU-8100は、電圧増幅だけでなく電流増幅にも真空管を用いている本格的な真空管アンプです。安価な真空管アンプの中には電圧増幅のみを真空管で行っているものもありますが、電圧増幅部はソフトウェアで再現する方法もあります。真空管アンプを選ぶのであれば、本品のように電流増幅を真空管で行うタイプがお勧めです。

今回の簡易測定では、2次高調波が歪み率0.2%程度で発生していました。また、60Hz以下の周波数が減衰してることも分かりました。

実際に音楽を鳴らしてみると、真空管独特のやわらかな音色が得られました。
本品の説明書には、2次高調波が真空管独特の音色に作用するという説明が書かれており、歪み率0.2%が音色に変化を与えているようです。
低音については、測定結果に反し、むしろ音の厚みが増していました。こちらも低域における2次高調波が真空管独特の音色に作用している可能性があります。観測を試みましたが、今回の測定方法ではAC100Vの60Hzの電源周波数の影響と、低域でのFFTの分解能の影響で分かりませんでした。

通常のアンプだと、歪み率の低いアンプの方が、音に柔らかさを感じます。歪み率が高いのに柔らかく感じる不思議さは、実際に体験してみないと分からないでしょう。

中型スピーカSC-T11R(比較用・参考)

最後に、PAM8012を中型スピーカに接続してみました。2ウェイ・トールボーイ型なので、小型スピーカと同様の要件で比較測定ができます。ウーハーは小型スピーカと同等の12cmと小さいのですが、内容積が16l(推定)ほどあるので、豊かな低音が出せる特徴があります。今回の簡易測定でも、低域の周波数が拡大していることが分かりました。

高調波の歪み率は、0.25%程度、発生していました。また、聴感上でも異音を感じました。負荷抵抗では観測できなかったので、スピーカが発している、またはアンプとの相性で発生したものと思います。今後、この組み合わせで使用することは無いでしょう。

今後

今後は、筆者がメインで使用している大型スピーカにTPA2006またはPAM8012を接続する予定です。TPA2006については、部品を追加購入し、入力コンデンサの容量を増やしてみようと思っています。

NJU8755はPCモニタ用のスピーカに接続しようと思います。これまでは、A-905TXをPCモニタ用のアンプに使用していましたが、消費電力が実測で11Wくらいありました。効率90%のD級アンプであれば、大音量で音楽を聴いていても消費電力は0.5W程度、普段は0.1W程度、無音時は0.05Wでした。消費電力が100分の1くらいになり、音楽を再生しっぱなしにしても電気代がほとんどかかりません(再生機器であるCDプレーヤ、スマホ等を除く)。このところ、高くなった電気代の節約にもなるでしょう。

ご注意

  • タイトルの「秋月」は、(株)秋月電子通商を示します。
  • 本ブログ内の情報についてのお問い合わせは、当ブログのコメント欄またはゲストブックにお願いします。
  • 本ブログ内の情報によって、被害を被られたとしても、一切、補償いたしません。自己責任でご利用ください。
  • 本稿に記した測定結果は、簡易測定によるものです。またサンプル数も1台です。
  • 測定結果は、各デバイスや機器の性能を示すものではありません。本稿では、アンプの比較と、性能の目安を把握するために表示しました。

by bokunimo.net


「秋月で売られている高音質D級オーディオ・アンプ4種類をコンポ用スピーカに接続して、比較してみた」への5件の返信

実に40年前に購入したアンプ付きスピーカーを久しぶりに引っ張り出したところ片側のアンプが壊れていることが分かり,D級アンプで簡単にレストアできないか探していてここに行きつきました.比較で良さそうなPAM8012を組み込んでみたところいい感じで鳴ってくれましたがドラムの音がおかしい感じがしました.調べたところ,説明書に音量に合わせてゲインコントロールが働いているとなっていましたのでこれをOFFにした(インプットコンデンサ2つの隣のチップコンデンサをショートした)ところ格段に音色が良くなりました.スピーカーの容量に余裕がある場合はオートゲインコントロールをOFFにした方が良さそうです.
最後にこのような比較サイトを作っていただきありがとうございました.非常に参考になりました.

コメントしていただき、ありがとうございました。
確かに、PAM8012ので音量を上げ過ぎると、自動利得調整機能の応動が間に合わず、大口径のスピーカの低音に異常をきたすことがありました。とはいえ、普段は気にならないので、すでに半年ほどメインで使用しています。
異音は、一度、経験するとアンプそのものが頼りなく感じると思いますが、いろいろ作ってみて、このアンプが一番、気に入っています。例えば、消費電力が0.05W(PAM8012を2個使用。製作品での実測。音量を上げれば、その分は増える)と小さいので、電気代を気にせずに使えます。

ところで、入力のコンデンサの容量は増強されているでしょうか?
https://bokunimo.net/blog/audio/1901/
もし、未増強だと低音の音域が出にくくなり、それが「おかしい感じ」になっていた可能性も考えられます。ご参考まで。

返信ありがとうございます.入力コンデンサは1μFのポリエステルフィルムコンデンサーに置き換えてあります.もっともスピーカーが5cmと小さい(マランツ ULS-5)なので低音は全く出ませんのでコンデンサ交換は意味があるのか分からないくらいですが.で,感じた違和感は低音ではなくスネアドラムやシンバルのアタック音の抜けの感じと言えばいいでしょうか.明らかに壊れていないもう1台の内臓アンプのスピーカーの方がいい音だったのが同等(高音の伸びはこちらが上)になりましたのでせっかくならばと思った次第です.データシートにもAnti-Saturationがどのレベルで効いてくるのか明記されていないのがこのICの残念なところかと思います.

ありがとうございます。なるほどです。シンバルは原理的に影響が出そうですね。また、5cmの小型スピーカとのことなので、スピーカユニットの感度を意図的(低音を出すため)に低めに設計して、小型化と高音質化の両立を図っている可能性が高そうです。もし、そうだった場合、アンプの所要出力が高くなるので、PAM8012ではドライブ能力不足気味になって、Anti-Saturationに影響するのでしょう。意外と小型スピーカ(低音の出せるタイプ)のほうが、影響を受けやすいのかもしれないですね。私も同じような口径のOntomoスピーカーOM-MF4(音圧83dB)というのを持っているので、機会があれば実験してみようと思いました。

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