ボクにもわかる地上デジタル - 地デジ対策編

分岐器、直列ユニット

作成:2003年11月
追記:2008年05月
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分岐器とは(直列ユニットとは)

 分岐器は電力の一部を取り出すアンテナ部品です。一つの入力に対して2つの出力があります。ほとんど損失の無い出力を通過出力と呼び、この損失を通過損失(挿入損失)と呼んでいます。反対に、大きな損失のある出力を結合出力と呼びます。結合出力の損失は約10dB前後もあり、この損失を負の数で表した数字を結合度と呼びます。(10dB以外のタイプもあります。)
 よく似た名前の「分配器」とは異なります。分配器は電力を等分に分配する部品で、詳しくは、「対策編-分配器」に記載しています。

                      ↓入力
       分岐器          直┏┿┓ 
      ┏━━━┓         列┃|┃  結合
  入力─→╂───╂─→ 通過出力  ユ┃|┠◎ 出力 -10dB前後
      ┗━┯━┛   -1dB以内  ニ┃|┃(テレビコンセント)
        ↓           ッ┗┿┛
       結合出力 -10dB前後     ト ↓通過出力 -1dB以内

 直列ユニットはアンテナコンセントと分岐器が一体になっている部品です。壁面内から電力の一部を分岐して取り出す働きをします。

分配器と分岐器(直列ユニット)の違い
部品 作用 損失 主な接続形態
分配器 電力を等分に分配する 3〜4dB スター型(根元で分配)
分岐器 電力の一部を取り出す 約10dB バス型(配線途中で分岐)

 また、分岐器の通過先からの反射波が分岐出力に混入するのを阻止する働きをもった分岐器もあります。方向性をもつという特長から方向性結合器とも呼んでいます。詳しくは後述の「方向性結合器」を参照ください。

分岐器の使い方(直列ユニットの使い方)

 下図は分岐器からアンテナケーブルを分岐した例です。アンテナで受信した放送波は、ブースターで増幅され、3つの分岐器によって、それぞれ1つのテレビコンセントに接続されています。

                  分岐器1  分岐器2  分岐器3
 ┏━━━━┓ ┏━━━━┓ ┏━━━┓ ┏━━━┓ ┏━━━┓
 ┃アンテナ┠→┨ブースタ┠→╂───╂→╂───╂→╂──┨┃
 ┗━━━━┛ ┗━━━━┛ ┗━┯━┛ ┗━┯━┛ ┗━┯━┛
                 |中間用  |中間用  |端末型
     壁面━━━━━━━━━━|━━━━━|━━━━━|━━
                 |     |     |
        (テレビコンセント)◎     ◎     ◎

 通常は、分岐器が壁面内側やテレビコンセントと一体になった中継ユニットに内蔵されていて、目に触れることがありませんが、10dBもの損失があることを意識する必要があります。この損失によって受信に問題が生じる場合は、アンテナから分岐器までの間にブースターを挿入して対策を行います。

分岐器の中間用と端末用(直列ユニットの中間用と端末用)

 前図に書かれているように、分岐器、および直列ユニットには、中間用と端末用の2つのタイプがあります。どちらにも、結合出力(テレビコンセント出力)が1つ以上ありますが、通過出力(次の分岐器への出力)の有無が異なります。中間用には通過出力がありますが、端末用は通過出力がありません。つまり、端末用は最後の終端に使用し、その他は中間用を使用します。

分岐器、直列ユニットの中間用と端末用過
タイプ 通過側 結合側 使用方法
中間用 ○電波通過 ○電波結合 中間用に使用します
端末用 ×端子なし ○電波結合 最後の終端用に使用します

 なお、端末用は、中間用の通過出力にダミー抵抗が取り付けられたものです。中間用にダミー抵抗を接続することで代用することも出来ますが、ダミー抵抗へ直流が流れないように阻止する必要があります。

分岐器の電流通過(直列ユニットの電流通過)

 分岐器や直列ユニットには、@電流通過型とA電流挿入型、そしてB電流阻止型の3タイプがあります。

分岐器、直列ユニットの電流通過
タイプ 通過側 結合側 使用方法
@電流通過型 ○電流通過 ×電流阻止 中間用に使用します
A電流挿入型 ×電流阻止 ○電流通過 ブースタ用電源の接続用に使用します
B電流阻止型 ×電流阻止 ×電流通過 電源挿入よりも後ろ側で使用します

 電流通過型は中間用に使用します。しかし、結合側(テレビコンセント側)からは電流が通過しないので、ブースター用電源を接続しても、ブースターに電源を供給することが出来ません。
 電源挿入型はブースター用電源を接続する箇所に使用します。アンテナから見て、電源挿入型の分岐器(直列ユニット)以降には電流が通過しません。
 電流阻止型は、アンテナから見て、電源挿入型の分岐器よりも後ろ側で使用します。通常は、電流通過型で代用してもかまいませんが、一番後ろの分岐器に、中間用とダミー抵抗を用いる場合は、必ず、電流阻止型である必要があります。

方向性結合器、方向性分配器の設計(ハイブリッドカプラ,3dBカップラー)

 方向性結合器は、下図のように、4端子の回路でA点からの入力をB点とD点に出力し、C点には出力しない結合器です。また、左右対称なので、B点からの入力は、A点とC点に出力します。したがって、A〜B を主線路とすると、A→BはD点に、B→AはC点に出力されます。
 また、主線路の特性インピーダンスZ=Zo/sqrt(2)から、Zo=75Ωの時、Z≒50Ωとなり、50Ωの同軸ケーブル(3Dや5Dケーブル)を利用することが出来ます。

ハイブリッドカプラー

 経路A→DはA→B→DとA→C→Dの2経路が同位相で合成されています。
 一方、A→Cは、A→B→D→Cと逆相で合成されており、出力が出ないように調整することが可能であることが分かります。ここで、Cからは出ないように調整されたとすると、Bからλ/2離れたB点に出力されることになります。
 A点からの75Ωの入力電力はC点には向かわないので50Ωの線路によって37.5Ωに変換されます。37.5Ωは75Ωの半分であり、75ΩのB点と75Ωラインの合成抵抗に一致し、電力が半分に分割されてB点とD点から出力されます。つまり、C点から電力が出てこない状態で整合がとれた為、電力はB点とD点で半分づつ出力してしまうので、結果的にもC点には電力が出てこないことになります。
 さらに、左右対称に線路のインピーダンスを設定すると、B点からの入力がA点とC点に出てくることになります。以上のような動作により方向性を持った結合器として作用します。

λ/4線路による方向性結合器(分岐器)の設計(ディレクショナルカプラ)

 前記の方向性結合器では電力を2等分しますが、ここでは電力の一部を取り出す方向性分岐器を説明します。

方向性結合器の製作例
方向性結合器の製作例


   入力→                      →通過
 ━━━┳━    ┏━━━━━━━━┓    ━┳━━━
 同軸1┠───●─┨ 75  入/4┠─●───┨同軸2
 ━━━┻┯ ┏┷┓┗━━━━━━━━┛┏┷┓ ┯┻━━━
    ┯┿┯┃ ┃    主線路    ┃ ┃┯┿┯   
       ┃C┃          ┃C┃
       ┃ ┃   結合線路   ┃ ┃   →結合
 ┏━━━┓ ┗┯┛┏━━━━━━━━┓┗┯┛ ━┳━━━
 ┃75Ω┠──●─┨ 75  入/4┠─●───┨同軸3
 ┗┯━━┛    ┗━━━━━━━━┛    ┯┻━━━
 ┯┿┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┿┯┯┯┯
          C=1pF R=75Ω

 同軸1から入ってきた電力は同軸2に追加すると共に、同軸3に漏れてきます。ところが同軸2から入ってきた電力はダミー抵抗(終端器)で消費されて同軸3には出てきません(実際には、多少、漏れてきます)。
反射波の抑制
 例えば、同軸1にアンテナを接続し、同軸2へと通過させるとともに同軸3から電波の一部を取り出してテレビに接続しているとします。もし、同軸2の先に他のテレビが接続されておらずテレビコンセントの部分で反射が発生したとしても、反射波は同軸3には混入しないので安定した受信が行えます。
アンテナの検査
 他の活用方法としては、同軸1にアンテナを接続した場合と同軸2にアンテナを接続した場合とを比較し、同軸2に接続した場合の方が高いようであれば、アンテナから電波が正しく流れてこないことが分かります。
 レベルの比較には、同軸3に日本アンテナの
UHFチェッカーを接続します。ただし、方向性結合器での損失が大きいことと、帯域が狭いことから、結合出力とチェッカーとの間にBPFとブースターを挿入した方が、より正確に測定できるでしょう。

設計方法
 主線路と結合線路を3Cの同軸ケーブルで製作する場合のケーブルの長さは、約10cmになります。これは、ケーブル内で波長が約0.67倍に短縮する為です。
試作品の特性例と調整方法
 筆者が製作した方向性結合器の特性について説明します。挿入損失は、同軸1から同軸2へ通過するときに発生する損失です。2分配器が約4dBだったのに対し、500MHzで1dB以下の損失しかありません。また、600MHzを超えると、損失が増大してゆく傾向がみられます。

方向性結合器の挿入損失
方向性結合器の挿入損失

 次に、結合度です。結合度は同軸1から同軸3に結合する度合いのことです。
 この例の500MHzの周波数において、同軸1から入力された電力のうち、14dB低い電力が、同軸3から出力されました。つまり、結合度は14dBです。

方向性結合器の結合度
方向性結合器の結合度


 結合度は、コンデンサCの値で調整することができます。結合度を−20dBなどに小さくする場合は、1pFより小さなコンデンサに変更します。しかし、1pF以下のコンデンサは入手しにくいので、コンデンサを直列に接続するなどで代用します。

 最後はアイソレーションです。アイソレーションは同軸2から同軸3に漏れてくる度合いです。この例では、500MHzで30dBくらいのアイソレーションがありした。
 注目して欲しいのは、先ほどの結合度の絶対値(14dB)よりも大きいことです。方向によって異なる損失、つまり「方向性」を有していることがわかります。
 同軸1からの入力と同軸2からの入力との結合出力の16dB(=30-14)の違いが、方向性の度合いを示します。

方向性結合器のアイソレーション
方向性結合器のアイソレーション


方向性結合器による反射損失測定(リターンロス、VSWR、SWR)

 前節で製作した方向性結合器の方向性を応用して、反射損失(リターンロス)の測定を行ってみました。
 反射を測定するので、方向性結合器の入出力は逆にします。方向性結合器の出力側から信号を入力し、入力側に反射損失を測定する測定対象を接続し、結合出力から出力される漏れ電力を測定します。

 下図は測定結果です。左図は測定対象をダミー抵抗にした場合です。中心の500MHzで反射損失20dB(VSWR=1.2)が測定できました。

方向性結合器のアイソレーション
方向性結合器による反射損失測定

 しかし、方向性結合器の方向性以上の反射損失は測定できません。最も方向性のある500MHz以外の周波数では、正しい結果が得られないのです。
 上図の右側は5dBアッテネーターで反射損失10dBにした場合の測定結果です。測定結果は15dBとなっていて、5dBもの誤差がありますが、反射係数が劣化していることは、明確に測定できています。

 以上のように、測定帯域や測定レンジの狭さ、測定精度の悪さなどがあるものの、例えば、アンテナ部品や、ブースターの整合回路を調整する際になど利用すると、とても重宝します。
 UHFを使った回路では、設計どおりのインピーダンスにならない場合があるからです。

トランスによる方向性結合器(分岐器)の設計(ディレクショナルカプラ)

 前記の方向性結合器と同様に、電力の一部を取り出す作用を小型かつ広帯域に実現できるトランスを用いた分岐器を下図に示します。
 入力端子から入った電力のほとんどは通過端子から出力されますが、一部が結合端子から出力されます。

               トランス         
                1:N          
   ━━━┳━       ┏━━┓         
   入力→┠────────╂┐┌╂─┐
   ━━━┻┯       ┃|∫┃┯┿┯
      ┯┿┯      ┃∫∫┃
            通過路┃|∫┃
   ━━━┳━      ┌╂┘└╂┐┏━━━━━┓ 
   通過←┠───────●┗━━┛●┨ダミー抵抗┃75
   ━━━┻┯      |    |┗━━┯━━┛Ω
      ┯┿┯   DC ┷ N:1 ┷  ┯┿┯   
           カット┯┏━━┓┯        
              └╂┐┌╂┘        
               ┃∫|┃結合路
               ┃∫∫┃
               ┃∫|┃      ━┳━━━
              ┌╂┘└╂───────┨→結合
              |┗━━┛      ┯┻━━━
   ┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┿┯┯┯┯┯┯┯┯┯┯┿┯┯┯┯
                  ※ブースター用電源使用時は要注意
          方向性結合器による分岐器

 以下に製作例を示します。

トランス方向性結合器の製作例(基板表面)
トランス方向性結合器の製作例(基板裏面)
トランス方向性結合器の製作例


  1:N 結合度 阻止減衰量 方向性 トランス
  ───────────────────────────
  1:3 −8dB 17dB 10dB アドミン T25-10(6uH/m)
  1:5 −12dB 17dB 6dB アドミン T25-10(6uH/m)

 トランスの巻き線比を1:3にした場合の特性例を下図に示します。図中の特性線は、上から、通過損失、結合度、阻止減衰量、方向性の測定結果です。

トランス方向性結合器の特性
トランス方向性結合器の特性

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