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スピーカ・ツイーターの仕組み
今回、使用したツイーターの仕組みから説明します。下図は、ツイーターの側面から見た断面図です。磁界中のコイルに電流を流したときに生じる力で、振動版を動かします。
このツイータを含め、多くのツイータは、マグネット部とボイスコイル部を分離することが出来ます。下図は、分離した様子です。
磁性流体
ボイスコイルが収まっていたマグネット部上の円形の溝をよく見ると、黒色(こげ茶色)の液体が充填されているのが分かります。この液体が磁性流体です。
磁力がかかっている限り、磁性流体はこの溝にとどまっています。また、液体なのでボイスコイルがこの中に入ると、ボイスコイルと磁石の隙間に磁性流体が入り込み、ボイスコイルが磁石に接触するのを防ぎます。他にもボイスコイルに伝わる磁力を高めたり、コイルの発熱を防止したり、空気振動をマグネット内に侵入させない効果などがあります。
磁性流体は揮発しにくい液体ですが、20年という歳月を経過すると揮発などで量が減り、ボイスコイルが振動するときに磁石に接触し、異音を生じさせてしまうことがあります。ボクのスピーカの場合、2本ともに同様の異音が発生していたこと、回路部のコンデンサの容量が表示通りだったことから、他の故障である可能性は低いと考えました。
3次高調波歪み
下図は、1kHzの正弦波を入力した時の周波数スペクトルの測定結果の一例です。入力周波数は、ツイーターの場合、クロスオーバ周波数と同じ周波数または高い周波数を使用します。
下図の左右どちらにも言えることですが、本来、入力した1 kHzだけ観測されるはずのところ、3 kHzの位置にもスペクトルが観測されました。これが異音の原因です。このような基音の3倍の周波数の不要スペクトルを3次高調波歪みと呼び、改善前は41dB(歪み率0.89%)でした。
なお、使用した測定機器は、下記で製作した簡易的な機器です。得られた結果や数値は目安であり、性能表示などに使用することは出来ません。
改善方法
磁性流体を入れ替えるのが最も適切な方法だと思いますが、このツイーター用に調合された磁性流体を入手することは困難です。そこで、オイルを追加することで対策してみました。ボクが使用したのは一般的なシリコーンオイルです。揮発性が低いので、長持ちすると考えました。直接、スポイトでマグネット部の溝に注入し、スピーカを上向けにしたまま、1kHz、3kHzの音を出して、混ぜてみました。磁性流体と混ざったのかどうかは良くわかりませんが、立てても垂れることが無かったので、うまく混ざった可能性が高いです。
とはいえ、分離して垂れてくる可能性が考えられるので、念のため、下図のように木工用ボンド(速乾タイプ)を塗って密閉することにしました。組み立て後に、ボンドがにじんでボイスコイルに到達しないよう、塗りすぎには注意してください。
その後、この写真を見て、密閉できていない部分があることが分かったのですが、今のところ漏れてきていません(1週間以上経過)。
改善効果
簡易測定による結果、3次高調波歪を41dB(歪み率0.89%)から51dB(歪み率0.28)に改善することが出来ました。前述のとおり、数値は目安です。
実際に、正弦波を聞いてみると、ほとんど聞こえないレベルまで改善されていました。音楽ソースだと、異音は全く認識できないレベルに達していました。声や楽器の音色がクリアになり、まるで新品のスピーカに蘇ったかのような印象を受けました。4時間ほど鳴らしっぱなしにしていますが、異音は発生しておらず、追加した油の分離や、木工用ボンドの塗り過ぎは無かったものと思っています。
注意点
必ずしも改善するとは限りません。
ボイスコイル部を外してしまうことでマグネット部との位置がずれてしまう懸念や、磁性流体の粘土が替わって本来の周波数特性が得られなくなく懸念、分解時に振動版を壊してしまう懸念、コイルを断線させてしまう懸念、正弦波による振動でスピーカを破損してしまう懸念など、多くのリスクがあります。とくに高価なスピーカについては、自分では絶対に修理せず、販売店や製造元に修理してもらったほうが良いでしょう。磁性流体が使われている安価なスピーカが存在するかどうかは不明(磁性流体そのものが高価につき存在しない可能性が高い)ですが、仮に存在しなかったからといって、この注意点に変わりはありません。
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by bokunimo.net