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秋月で売られているD級オーディオアンプ3種類を簡易測定で比較してみた

低消費電力で高性能なD級オーディオ・アンプを本格的なスピーカに接続する目的で製作し、性能を比較してみました。また、コンポ並みの音質が得られるかどうかも確認してみました。

D級アンプとは

デジタル方式のアンプです。通常のアナログ方式のアンプよりも、小型で高効率、低価格という利点があります。また、ほとんどの機能が一つのICに内蔵されているので、比較的、簡単にオーディオ機器を製作することが出来ます。

高効率がもたらす高音質

アンプの効率が高いことで、見た目には想像つきにくいレベルの高音質なオーディオ機器を簡単に製作することが出来ます。通常のコンポのアンプ内には巨大なヒートシンク、トランス、コンデンサが内蔵されており、それらは丈夫な筐体に収められています。これらを無くすことで手軽に手作りアンプが製作できます。
安価に製作できるだけではありません。音質を劣化させる要因も減るので、少ない知識で高音質化が図れます。

通常のアンプに必要だった巨大な部品が不要になり、簡単に高音質なオーディオ・アンプを実現することが出来る

出力マージン不要

自作することで、出力マージンが不要になります。市販品の場合、様々な入力機器や出力機器(スピーカ)、視聴環境に対応するために、広範囲の入力レベルに対応する必要があります。出力レベルも広範囲になるので、調整のためのボリューム(可変抵抗器)の感度も高くなり、大きな調整つまみも必要になります。
自作品であれば、接続する機器と視聴環境に合わせてアンプの利得を決めることが出来るので、無駄な出力マージンが不要になり、秋月電子通商で販売されている1~2W程度のアンプで(一般家庭において)十分な音量を得ることができます。

また、歪み率は、ボリューム(可変抵抗器)で音量を上げると悪化しますが、音量を下げても悪化します。回路上で利得を設定しておけば、歪み率の小さな領域で視聴することが出来るようになります。

比較するD級オーディオアンプ

本ブログでは、下記の3つのD級オーディオ・アンプ用デバイスを比較します。

  • TPA2006使用 超小型D級アンプキット
    (https://akizukidenshi.com/catalog/g/gK-08161/)
  • アナログオーディオ用D級パワーアンプIC NJU8755V
    (https://akizukidenshi.com/catalog/g/gI-11480/)
  • PAM8403使用 ステレオD級アンプモジュールキット
    (https://akizukidenshi.com/catalog/g/gK-15698/)

括弧内は秋月電子通商(https://akizukidenshi.com/)の商品ページのURLです。通販コードは上から順に、K-08161、I-11480、K-15698です。

TPA2006使用 超小型D級アンプキット

TI製TPA2006を搭載した最大1.45W(スピーカ8Ω)のモノラル・アンプです。ステレオで使用する場合は、2個、必要です。裏面のソルダジャンパのIN+とIN-をショートすれば、外付け部品で利得を調整することが出来ます。ここでは、ソルダジャンパをショートし、抵抗器で電圧利得6.8倍(16.7dB)を設定しました。

入力は抵抗22kΩとコンデンサ0.047uFを経由して接続(大型スピーカに接続する場合は、コンデンサ0.22uF~0.47uFを使用する。未検証)。出力にはEMIフィルタ(220pF)とLCフィルタ(L=47uHとC=0.22uF)を追加した

オーディオ入力は不平衡とし、TPA2006のIN-端子に入力抵抗22kΩと直流阻止コンデンサ0.047uFを経由して接続しました。コンデンサの容量は、キットの基板に予め実装されている100kΩと6800pFから比例計算で0.03uF以上となる0.047uFを使用しました。カットオフ周波数は154Hzなので、大型スピーカに接続する場合は、コンデンサの容量を0.22uF~0.47uFくらいまで増やした方が良いでしょう。

オーディオ出力にはEMIフィルタ(220pF)とLCフィルタ(L=47uHとC=0.22uF)を追加しました。省略してもアンプとして動作しますが、EMIを防止する効果と、高周波のデジタルノイズがアンプの入力に回り込むことによる歪み率の低下を防ぐ効果があります。EMIフィルタを使用せずにLCフィルタのみで構成する場合は、L=22uHとC=0.47uFをOUT+とOUT-のそれぞれの端子に入れ、Cの片側をGNDに接続します。

SD端子はTPA2006内部でプルダウン(300kΩ)されているシャットダウン端子です。ボクはスイッチ付き可変抵抗器のスイッチを接続しました。

下図はLCフィルタ部を除く製作例です。手前が入力側、奥が出力側です。

入力は不平衡とし、入力抵抗22kΩと直流阻止コンデンサ0.047uFを経由して接続。出力はEMIフィルタ(220pF)とLCフィルタを追加(LCフィルタは写真にはない)

上記のような基板の状態で、測定や回路の調整を行った後に、下図のようにケースに組み込みました。基板上にインダクタを実装し、スピーカ端子にコンデンサを追加し、電線はすべて半田付けしました。

基板上にインダクタを実装し、スピーカ端子にコンデンサを追加し、電線を半田付けした完成例

アナログオーディオ用D級パワーアンプIC NJU8755V

日清紡マイクロデバイス(旧JRC)の最大1.2W(スピーカ8Ω)のステレオ・アンプIC(SSOP 20ピン)です。ステレオなので2ch分を一つのICで増幅できます。

反転オペアンプ入力回路、PWM 変調回路、出力短絡保護回路、電源電圧監視回路を内蔵したアナログ信号入力のステレオ D 級オーディオパワーアンプ。出力回路は BTL 構成のため、外付けのカップリングコンデンサが不要。出力に簡単な LC 型ローパスフィルタを接続することで、1.2W/ch の高出力が得られる(NJU8755データシートより)

アンプICの価格が150円(執筆時)と安価だったので、本ブログでは、秋月電子通商製ピッチ変換基板(HTSSOP20ピン・HSOP20ピンDIP変換基板, 秋月通販コード:P-10441)にアンプICやデカップリング・コンデンサを実装し、ユニバーサル基板(Dタイプ)にLCフィルタを実装しました。

下図のように、ピッチ変換基板上のGND(VSS、VSSL、VSSR)のパターン部に銅箔テープを半田付けし、コンデンサを直接ピッチ変換基板に実装することで、主に高周波ノイズの発生や回り込みを抑制します。

秋月電子通商製ピッチ変換基板上のGND(Vss)のパターン部に銅箔を貼り、アンプICやデカップリング・コンデンサを実装した
銅箔テープの一例

銅箔を半田付けするには、予め基板上のレジストを剥がし、薄く半田を流しておき(半田メッキのような状態にする)、銅箔の角になる部分をしっかりと基板パターンに半田付けしてください。

アップICを実装したピッチ変換基板をユニバーサル基板(Dタイプ)に実装し、LCフィルタを実装した完成例を下図に示します。

ピッチ返還基板にアンプICやデカップリング・コンデンサを実装し、ユニバーサル基板(Dタイプ)にLCフィルタを実装した

オーディオ入力には、入力抵抗27kΩ、直流阻止コンデンサ2.2uFを接続しました。
データシートにはNJU8755V内のアンプの設計情報が書かれていませんでしたが、利得が23dB、入力インピーダンス20kΩから逆算すると、フィードバック抵抗は140kΩと算出できます。入力レベル0.5V(RMS)で出力1.2W(8Ω)を得るには、目標電圧利得Av=6.2となるので、入力抵抗Rin=27kΩ、設計電圧利得Av=6.0倍(15.5dB)にしました。

NJU8755Vの入力ピン(IN_LとIN_R)には、高周波回り込み防止用のコンデンサ100pFを接続し、コンデンサの反対側を電源のVSSに落としました。このコンデンサは、ピッチ変換基板上に実装します。当初、回路図通りに製作したところ、10kHz付近に発振がみられました。ピッチ変換基板が原因と考え、VSSの配線を銅箔に変更し、同じ銅箔上に前述の100pF、COM端子用のコンデンサ10uF、NJU8755VのVSSを最短距離で接続しました。このため、ピッチ変換基板が、御輿(みこし)のような格好になりました。

オーディオ出力側は、L=27uH、C=1uFのLCフィルタで構成し、ユニバーサル基板の4隅に配置しました。

Raspberry Piと一緒に一つのケースに入れたときの完成例を下図に示します。

Raspberry Piと一緒に一つのケースに入れたときの完成例

MUTE端子は、スイッチ付き可変抵抗器のスイッチで制御できるようにするとともに、スイッチ状態をRaspberry PiのGPIO27に入力しました。スイッチがOFFのときに、GPIO27にLレベルを入力し、Raspberry Piをシャットダウンするためです。

MUTE端子は、スイッチ付き可変抵抗器のスイッチで制御できるようにするとともに、スイッチ状態をRaspberry PiのGPIO27に入力した

PAM8403使用 ステレオD級アンプモジュールキット

秋月電子通商が開発したキットです。アンプICには、1.4W(スピーカ8Ω)×2チャンネルのPAM8403が用いられています。予め表面実装部品が裏面に実装されたキットで、表面の8点の部品を半田付けするだけで完成します。下図のボリュームのつまみは別売りです(可変抵抗器は付属)。

予め表面実装部品が実装された状態のキットで、8点の部品を半田付けするだけで完成する

予め基板の裏面に表面実装されているアンプの入力抵抗は27kΩで、電圧利得Av=6.3倍(16.0dB)です。

3つのオーディオ・アンプの設定利得の比較

これら3つのアンプは電源電圧5V、BTLタイプ(フル・ブリッジ・ドライバ)なので、理論上の最大出力Pは、3.54(Vrms)^2÷8(Ω)≒1.56(W)です。また入力を0.5VrmsとするとAv=3.54(Vrms)/0.5(Vrms)≒7倍となります。実際にはFETのON抵抗などの影響を受けるので、これらよりも少し小さな値になります。以下に、今回製作したそれぞれのアンプの設計値を示します。

アンプ入力抵抗設定利得定格出力(8Ω)
TPA200622 kΩ6.8倍(16.7dB)1.45 W
NJU8755V27 kΩ6.0倍(15.5dB)1.2 W
(PAM8012)※10 kΩ6.0倍(15.5dB)1.0 W
PAM840327kΩ6.3倍(16.0dB)1.4 W
※PAM8012は別記事で測定したものを追記

簡易測定による比較結果

オーディオ・アンプは、高出力時と低出力時に音質が劣化します。しかし、高出力時の測定には、正確な定格レベルでの出力が必要であり、精度の低い簡易測定では調整が難しいという課題があります。そこで、本稿では、それぞれのアンプに約0.001Vrmsを入力した低出力時の特性を簡易測定してみました。
今回の入力レベルは、定格出力より約54dB低い値です。定格入力(定格出力)マイナス20~60dB程度の範囲内で、なるべく低い入力レベル値にしてみました。例えば出力音圧85dB/1W/mのスピーカに定格1.4Wのアンプの組み合わせた場合、85+1.5-54=32dB/1W/m(スピーカの音圧(dB/1W)+10log(定格出力÷1W)+定格に対する入力レベル(dB))の音圧となります。

以下に簡易測定結果をまとめます(詳細は後述)。

アンプ周波数特性歪み率(2次)歪み率(3次)歪み率(合計)
TPA2006100~20kHz0.12%0.12%
NJU8755V40~20kHz0.20%0.11%0.31%
(PAM8012)※40~20kHz0.04%0.04%
PAM840340~20kHz0.40%0.40%1.20%
※PAM8012は別記事で測定したものを追記

各アンプの簡易測定結果

TPA2006

TPA2006は、前述のカットオフ周波数に伴う低音の低下と、3次高調波歪み-58dB(歪み率0.1%)が観測されました。高調波歪みについては、スピーカに近づいても、全く認知できないレベルでした。

NJU8755

NJU8755には、10kHz付近に-53dB(歪み率0.2%)の発振が見られました。前述の高周波対策用コンデンサ追加前は-40dB(歪み率1.0%)程度だったので、改善されました。改善後は、スピーカに近づいても、認知できないレベルになりました。

PAM8403

PAM8403は、2次以上の複数の高調波歪みが見られました。1つあたり-48dB(歪み率0.4%)程度ですが、2次、5次、6次の3つを合わせると-38dB(歪み率1.2%)まで悪化します。また、スピーカに近づくと明らかな異音が聞き取れました。

なお、PAM8403については、認識できるレベルの歪みが発生していたため、個別不良ではないことを確認するためにデジット製DAMP-8403でも測定し、同様の傾向(高調波の発生と異音)が生じることを確認しました。

デジット製DAMP-8403

コンポ並みの音質かどうか

一般的なコンポのオーディオアンプにはAB級アンプが採用されています。仕組みは異なるものの、D級アンプと同様に、定格出力に近づくと歪み率が増大(悪化)し、また小音量時も増大します。コンポの定格出力時の歪み率は-54dB(0.2%)、その他の出力だと-66dB(0.05%)程度の表示となっています。もちろん、グレードの高いコンポは、より低歪みです。

そこで、本ブログでは歪み率0.2%以下をコンポ並みと定義することにしました。

使い方も条件も異なるので、直接、数字を比較することは出来ませんが、TPA2006とNJU8755については、歪み率0.1~0.3%だったので、コンポなみの音質に迫っていることが分かりました。一方、PAM8403については、歪み率1.2%のうえ、認知できる異音が出ている点からも、コンポとは違う用途(スマート・スピーカや、家電の音声出力用、ラジカセ程度の利用など)で使用するのが良いと思いました。

下図はコンポ用アンプと自作アンプの性能差のイメージです(主観を含む)。適度な音量(最大音圧70dB)であれば、実使用上の性能差はコンポ用のアンプなみと言えるでしょう。

主観を含むコンポ用アンプと自作アンプの性能差のイメージ。実使用性能は、コンポ用アンプに迫っていると考えた(試算条件:スピーカ音圧85dB、スピーカから2m離れた場所、スピーカ2本を想定)

簡易測定の方法

本稿では計測器ではなく、信号源にオーディオ・テストCDを使用し、測定側にスマホのオーディオ入力機能を使用した簡易測定です。信号源は、実際に接続する機器を使うのが良いでしょう。

[信号発生]→[アンプ]→[LCフィルタ]→[負荷抵抗]→[スマホ]

  • 信号発生:マイCDチェック CA-5006(日本コロンビア)
  • スマホ用アプリ:Spectroid (Carl Reinke氏)
  • LCフィルタ:L=47uH、C=0.22uF
  • 負荷抵抗:8Ω(33kΩ 1/4W 4本・並列)

スマホへの入力方法は下記で紹介したものです(今回は、マイクは使っていない)。スマホのヘッドホン端子のピン配列に注意するのと、最大入力レベルに近づかないようにしてください。

下図はTPA2006測定時の様子です。アンプ出力部のLCフィルタと負荷抵抗(8Ω)は、写真上部の小型ブレッドボードに実装しました。測定時にスピーカの負荷の代用として必要な負荷抵抗は、33Ω 1/4Wの抵抗4本を並列接続(8Ω 1W)して製作しました。

TPA2006の測定時の様子。LCフィルタは外付けで測定

基板にLCフィルタを実装したNJU8755の測定時は、負荷のみをアンプ出力端子に接続しました。抵抗の定格が1/4W×4本で1Wなので、アンプの定格出力1.4Wを測定することは出来ません。

33Ω 1/4Wの抵抗4本を並列接続(8Ω 1W)して製作した負荷抵抗(測定時にスピーカの負荷に代用)

ご注意

  • タイトルの「秋月」は、(株)秋月電子通商を示します。
  • 本ブログは秋月電子通商によって作成されたものではありません。本ブログ内の情報についての問い合わせは、当ブログのゲストブックにお願いします。
  • 本ブログ内の情報によって、被害を被られたとしても、一切、補償いたしません。自己責任でご利用ください。
  • 本稿に記した測定結果は、簡易測定によるものです。またサンプル数も1台です。
  • 測定結果は、各デバイスの性能を示すものではありません。本稿では、主に3種類のアンプの比較と、性能の目安を把握するために表示しました。

by bokunimo.net

「秋月で売られているD級オーディオアンプ3種類を簡易測定で比較してみた」への4件の返信

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