目次
概要
筆者が保有する ONKYO 製スピーカ D-102EX の低音が物足りなく感じたので、スピーカのウーハーのエッジ交換を行って、周波数特性が改善できるかどうかを確認してみました。
交換前のスピーカのエッジ
下図は交換前の様子です。スピーカのエッジは、振動版の周囲の黒くて柔らかい部分です。
本スピーカの元々の特長として、エッジの盛り上がり部が、あまり前面に飛び出していない点があります。また、バッフル(外枠カバー)がエッジの盛り上がり部の間際に配置されており、振動板のサイズを最大限に確保した構造になっています。
スピーカ D-102EX の構造図
下図は、本スピーカ D-102EX の 13cm ウーハーの構造を示す断面図です(一部に筆者の推測を含む)。図の上側がスピーカの正面で、下側が背面です。他の製品も似た構造になっています。
スピーカ中央のボイスコイルは、磁石によって本図の水平方向に磁界がかけられており、本図の紙面に対して垂直方向に電流が流れたときに、振動版を本図の上下に動かします。
図の上部の赤色の部分が、今回、交換するエッジです。
エッジはスピーカのフレーム(橙色)と振動板(肌色)とバッフル(黒色)に接着されています。バッフルは、スピーカ・ユニットのフレームに接着剤で固定されており、木製筐体(キャビネット・茶色)の前面にネジで固定されています。
一般的な汎用のエッジ
下図は、スピーカ用の汎用エッジの販売例です。詳細な寸法が記載されています。
13cm ウーハーの場合、5インチのものの中から、適合しそうな寸法の商品を選びます。材質はウレタン製とゴム製が販売されており、下図のゴム製はウレタンよりも寿命が長い代わりに質量があります。
通常、汎用エッジは、下図の左側のように振動板の端からエッジが飛び出したような形で接着します。しかし、本スピーカの元の構造と似たような仕上がりにするには、下図の右側のように、振動板をエッジの中腹部に接着する必要があります。
エッジ交換後のウーハーの仕上がり例
まずは、仕上がりから紹介します。下図は、エッジ交換後の見た目です(本ブログの冒頭と同じ写真)。
交換前(下図・左)と比較しても、あまり変わらないことが分かります。色合いの違いは撮影によるものです。
ウーハー・ユニットの構造と汎用エッジの接着方法
下図は、元の見た目と似たように仕上げる際のイメージ図です。振動版をエッジの中腹部に接着すると、振動版との間にスキマが出来てしまいます。
このスキマに接着剤を流し込む方法も考えられますが、振動板の質量が増大し、周波数特性に影響してしまう懸念があります。
そこで、下図の右側のように、振動板の先端部を強力両面テープで固定しつつ、エッジの先端では接着剤を薄く塗って固定しました。
両面テープは、見た目だけであれば不要です。しかし、両面テープが無いと、音楽再生時に振動板が飛び出す(図の上側に移動する)際に振動板とエッジとの間に隙間が発生してしまいます。このため、振動板の外周をエッジに両面テープで固定しました。
ウーハーのエッジ交換手順
ユニットを取り出す
はじめに、スピーカの筐体に4つのネジで固定されているスピーカ・ユニット(ウーハー側)を取り外します。
ネジを外した状態で、スピーカ・ユニットが下向きになるようにスピーカを傾けると重力でスピーカ・ユニットが外れます。ただし、ユニットの裏にはスピーカケーブルが接続されているので、断線させないよう前面で支えながら傾けてください。
バッフルを取り外す
バッフルは、スピーカ・ユニットのフレームに接着剤で固定されています。表面に傷が入らないように、外周の隙間にマイナスドライバーを入れ、浮いたらドライバーを外し、少しづつ回しながら、繰り返して取り外します。
エッジを除去する
古いエッジは、振動板に傷をつけないように十分に注意しながら、カッターナイフで除去します。
また振動板の裏側も、なるべくエッジの残骸が残らないように除去します。カッターの刃が振動板の端面に接触すると、振動版を切ってしまいます。とくに目立つ部分なので、慎重に除去してください。また、カッターの先端で振動板を貫通させないようにも注意します。
フレームに残ったエッジの残骸(厚紙の両面テープ)も除去しました。ただし、この厚紙はフレームとバッフルを密着させるためのガスケットなので、交換用エッジの外周部の厚みに合わせて処理してください。
交換前の古いエッジを除去できました(下図)。フレームに両面テープが残っているように見えますが、厚みとなる大半は削り取りました。
振動板の裏面端に両面テープを貼る
振動板の裏面端の周囲に両面テープを貼ってゆきます。2~3cmほどに切った両面テープを、のりしろ数mm程度で貼り、続けてその隣にも隙間を開けずに貼ってゆき、振動板の全周にわたるように繰り返します。
剥離紙は剥がさない方が後に調整しやすいです。
貼り終えたら、振動板からはみ出た両面テープをはさみで切断します。振動板のギリギリの部分を切断するので、はさみの刃が振動板に触れないように注意します。
新しい交換用エッジを仮組する
ようやく新しい交換用エッジの出番です。まずは、エッジと振動板が同心円状になるように仮組をしてみます。前述のとおりエッジの突起部の中腹で固定することになるので、ずれやすい構造になります。
位置が定まったら、周囲をセロテープ※で仮固定します(セロテープは、後で剥がす)。
仮組にバッフルをつけてみる
仮組は重要な作業です。交換用エッジの大きさや厚みによっては、正しく納まらないかもしれないからです。
筆者が購入したエッジの場合は、外周が1〜2mmほど大きかったので、バッフルがスピーカ・ユニットのフレームと正しく接触するように外周を切断しました。
両面テープの剥離紙を剥がして接着する
交換したエッジの接着は、振動版の外周を両面テープで、エッジの内周をボンドで行います。
ここでは、先に両面テープの接着を行います。仮組の状態であっても、エッジと振動板との位置関係が簡単にずれてしまうので、位置関係を保持しておく必要があるからです。
下図のように、ピンセットを使って両面テープの剥離紙を1枚だけ剥がし、振動版の表面と裏面を指で押さえて接着します。この作業を、エッジと振動板との位置関係に気を付けながら、繰り返し、全ての剥離紙を剥がして接着します。
剥離紙の剥がし忘れが無いかどうかは、エッジ部を軽く押してみると確認できます。振動版とエッジとの間に浮きが生じた場所に、剥がし忘れがあります。
振動板の裏側のエッジをボンドで接着する
交換したエッジのボンドによる接着は、振動版の裏側で行います。空気が漏れないように隙間なく接着しますが、接着剤をつけすぎると接着剤の重みが周波数特性に影響します。とくに両面テープから接着点までの間にはスキマがあり、ここに接着剤を充填してしまわないように注意してください。
下図(見た目は悪い)のようにエッジの端部と振動板の接触点に隙間ができないようにボンドで接着しました。
筆者は、コニシのボンドG17を使いました。この接着剤は接着する両面に塗る必要があります。今回は、ボンドを塗る際にエッジを少しずらしてボンドを塗り、元の位置に戻るときに接着両面に接着剤が付くようにしました。
ここで接着剤がある程度乾くまで、全周に一定の圧力をかけた状態で、数時間、待ちます。ちょうど良い重しがありました。
表面のエッジとバッフルをボンドで接着する
振動版裏面の接着剤が乾いたら、スピーカ・ユニット表面の接着に移ります。仮組用のセロテープを少しずつ剥がしながら、エッジの突起部に接着剤が付かないように、エッジの外周端部とフレームに接着剤を塗ります。塗り終えてから数分ほど待って接着剤の表面の粘度が少し高まったら、バッフルを接着します。
バッフル側にも接着剤を塗った方が、強力に接着できますが、装着時にエッジの突起部を汚してしまいます。このあと、十分な圧力をかけるのと、完成後はネジで止めるので、バッフル側には塗りませんでした。
圧力で接着力を強化する
じゅうたんなど、やや柔らかい床面に紙を敷き、スピーカ・ユニットを伏せて置いた状態で、重しを載せて接着します。筆者は、スピーカの筐体にネジ止めして、圧力をかける方法も試しましたが、ネジ止めした4か所以外が浮いてしまったので、この方法を用いることにしました。
完全な接着には、丸一日くらいかかります。それまでは、音を鳴らさないようにしてください(接着強度が低下します)。
周波数特性を測定する
スピーカ用エッジを交換する前と、交換後の周波数特性を、簡易測定にて確認しました。その結果、エッジ交換前(下図の緑色のグラフ)に比べて、エッジ交換後(赤色)の方が、低い周波数の音圧が平坦になることが確認できました。60Hz~1kHzまでは、ほぼフラットになり、試聴においても体に響くような低音が感じられるようになりました。
この結果を見る限りは、新品の状態に近づいたように思えますが、1kHz~2kHzの音圧が下がっている点は、接着剤や使用した交換用エッジの質量の影響を受けている気もします。
2kHz以上は交換していないツイータの特性なので、良く一致しています。測定環境に変化が無かったことを示す証拠にもなります。
下図は、測定時の様子です。こういった比較測定の場合は、環境の再現性を高める必要があります。部屋の中央に測定専用のスペースを確保しておくと良いでしょう。また、壁や障害物に対して、45°の角度で配置することで、周囲環境の影響を減らすことが出来ます。
簡易測定には、下記で製作した測定用マイクロホンを使用しました。詳細は、下記のページをご覧ください。
スピーカ用インシュレータ
実使用時にフラットな周波数特性を得たい場合は、スピーカの下にインシュレータを設置します。スピーカの底面からの振動が設置面の机や棚に伝わる量を軽減することが出来ます。
筆者は、スピーカに付属していたコルク製のインシュレータを、ONKYO製 OFC SPEAKER BASE に貼り付けて、その上にスピーカを載せて使用しています。
ONKYOのロゴが3つ(左右で6つ)見えるのが嬉しいです。
注意点
- 周波数特性は簡易測定につき測定結果は目安値です
- 状態や個体差などによって、必ずしもこのとおりになるとは限りません
- 改造により、本来の仕様を満たさなくなる場合があります。
- 定格出力は新品の状態に比べて下がると考えられます(修理前の状態よりも上がる場合もある)。
- クロスオーバー周波数 2.5kHzにおけるツイータとウーハーの位相が、元の製品設計と異なってしまう場合があります(筆者の測定結果からは、元の設計に近くなっているように見える)
- 整備品などとして販売する場合は、改造品であることや本来の仕様どおりの性能を満たさない場合があることなどの情報開示が必要です。
- 本ブログ記事に関する、製造元や製品販売元への問い合わせはご遠慮ください。
- セロテープはニチバンの登録商標です。
- Amazon Echo Dot は、スマートスピーカとして使用するための製品であって、重しとして使用するための製品ではありません。本製作時に、筆者の手持ちの物品で、大きさ、質量がちょうど良かったため、製作の参考として掲載しました。製造元への問い合わせはご遠慮ください。