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KORG Nutube を使ったシンプル真空管オーディオ・アンプの製作

KORGの真空管Nutube 6P1を使って、スピーカ用アンプをブレッドボードで作成してみました。本稿では設計方法の概要と、実測との相違点について説明します。

KORG Nutube 6P1

KORGが開発したNutubeは、ノリタケ伊勢電子のFLディスプレイ(VFD・蛍光表示管とも言う)を使った低消費電力動作が可能な真空管アンプです。真空管はトランジスタが登場する以前に増幅用デバイスとして使われており、またFLディスプレイはオーディオ機器やビデオデッキ、カーオーディオ、少し高めの家電製品などの表示用に使われていました。

Nutube 6P1は、2つの3極管を構成した真空管アンプです。最大出力は1.7mWと低いタイプになっており、電圧増幅を目的としたアンプです(最終段のパワーアンプとしては使えない)。電子楽器メーカであるKORGの開発製品という性質から、音に味付けをすることが主目的で、それがFLディスプレイの構造にマッチしたのだと思います。

2つの三極真空管をFLディスプレイ構造内に構成されているNutube 6P1

シンプル・アンプ回路図

下図は、KORG社が公開する基本回路をベースに作成した0.2Wオーディオ・アンプの検証用回路(0.03W)の設計例です。電圧増幅はNutubeのみで行い、スピーカ駆動に必要な電流をトランスで取り出す構成としました。

KORG社が公開する基本回路をベースに作成した0.2Wオーディオ・アンプの検証用回路の一例
参考文献:KORG Nutubeサイト https://www.korgnutube.com/

図ではステレオの片チャンネル(Lch)のみを示していますが、Nutube (V1)のRch側にも同じ回路を組みました。

両チャンネル分のNutube用の周辺回路は、下図のようにブレッドボード上に実装しました。

周辺回路をブレッドボード上で作成した0.2Wオーディオ・アンプの製作例
ご注意:ブレッドボードは、回路の基本動作を確認するのには便利ですが、実使用向けの製品ではありません。とくに24V以上の電源を使用した回路は、触れたときに人体に流れる電流を感じたり、部品が外れてショートして火災の原因となる懸念が高まります。また、使用したDCジャックの耐圧は20V、ブレッドボードの耐圧は36Vであり、定格を超過してしまいます。通電中は製作品やACアダプタなどから目を離さないようにしてください。万が一、事故が生じたとしても筆者は一切の責任を負いません(2022/8/15)。

J-FET

Nutubeは1.7mWまでしか出力できないので、KORGの基本回路と同様にインピーダンス変換器(Nch J-FETによるソースフォロワ)を使って電流のみを増幅しました。使用したNch J-FETは手持ちの2SK246(BL)です。インピーダンス変換用のJ-FETとしては2SK30のほうが低雑音ですが、今回は実質のパワーアンプ部としての出力を要するので、高出力の2SK246(ランクBL)を使いました。

2SK30A(Y・右)よりも高出力な2SK246(BL・左)を使用した
ランクY:1.2~3.0mA、GR:2.6~6.5mA、BL:6~14mA

トランス部

橋本電機製のSansui ST-32(1.2kΩ:8Ω, 0.2W)を使いました。巻き線比が12倍と大きく、電流を12倍に増やし、スピーカを駆動できるようになります。トランスのサイズが15.5×20×16.5と小さい点も特徴で、実験時に取り扱いやすい利点もあります。
かつてオーディオ・アンプの品質で定評のあった山水電気の古いロゴが入っている点や、山水電気が破綻した現在でも国内生産している点などを考えると、1組は保有しておきたいデバイスです(筆者はSansui製アンプAU-α607を保有する山水ファンの一人です)。

使用したトランスには山水電気の(古い)ロゴが入っている

この写真の下側の中点タップ(赤色の電線)があるほうが1次側(1.2kΩ側・アンプ側)、上側が2次側(8Ω側・スピーカ側)です。巻き線費やサイズから考えて、もし間違うと一瞬で壊れると思います。配線時は十分に注意してください。

本トランスに、インピーダンス6Ωのスピーカを接続した場合の1次側は900Ωになります。また、Nutube+JFET+本トランスを使ったアンプ・システムの理論上の出力は、電源電圧50V、負荷抵抗385kΩ、入力 1.5V、1VRMSを想定すると、VP-P=28V、実効値VRMS=10Vであり、900Ωの負荷に対し、約0.1Wの出力×2chの0.2Wとなります。
ただし、本稿では電源電圧24Vを用い、0.03Wアンプにて0.2Wアンプの検証実験を行います(後述)。検証用として十分な音量が得られたので、ブログに書いています。

フィラメント用・DCバイアス用DCDCコンバータ

3.3V電源にはローム製のDC→DCコンバータ・モジュールBP5293-33を使用しました。DCバイアス電流は15μA程度(DCバイアス電圧2.5V時)、DCバイアス調整用の可変抵抗に330μAですが、フィラメント用の電流は1.7mA×2ほどあり、24Vから抵抗で供給すると82mW、通常のレギュレータを使えば、それ以上の消費電力になってしまいます。
DCDCコンバータの効率を70%(実際にはそれ以上)とすると、フィラメント用の消費電力は約16mW(実際にはそれ以下)に抑えることが出来ます。

DC→DCコンバータ・モジュールBP5293-33でフィラメント用の消費電力を低減する

アンプの設計

下図はアンプの動作点を設計する際の特性チャートです。ここでは、検証用として24Vの電源電圧、100kΩの負荷抵抗を用い、電圧増幅率4.8倍を想定しました。入力DCバイアスは、基本回路と同様に別電源で2.5Vを供給することを想定しました。
出力DCバイアスは下記チャートから16.4Vで、電源電圧24Vに対する最大出力電圧(実効値)は5.4VRMS、出力は0.03Wです。

24Vの電源電圧、100kΩの負荷抵抗を用い、電圧増幅率4.8倍、入力DCバイアス2.5Vを想定した
参考文献:KORG Nutubeサイト https://www.korgnutube.com/

入力DCバイアス(アンプの動作点)の調整

ブレッドボード上に回路を組み、回路図上の可変抵抗VR1を使って、真空管の入力端子G1にて2.5Vが得られるように、入力DCバイアスを実際に調整してみました。このとき、真空管の出力A1端子には、上のチャートからDC約16.2Vが得られるはずなのですが、20Vほどが得られてしまいました。トランジスタでいう電流増幅率hFEランクが低い真空管にあたってしまったようです。
そこで、入力DCバイアスを3.0Vまで上げることにしました。それでも、まだDC電圧が18Vほどあり、電源電圧24Vとの差が6Vなので最大振幅6V×2=12V(実効値4.2V、出力0.02W)でした。
さらに、100kΩの負荷抵抗を220kΩに変更すると、入力DCバイアス3.0Vで16V付近まで下げることが出来、想定していた出力0.03Wが確保できました。

次ページに続く

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