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LM4880 アンプで Hi-Fi オーディオ用スピーカを駆動する

Hi-Fi オーディオシステム用アンプに挑戦。
秋月電子通商で販売されている LM4880使用ポータブルヘッドホンアンプキット AE-LM4880 を Hi-Fi オーディオ用スピーカに接続してみました。

概要

「まともな音が出るはずがない」と思っていないでしょうか?

ポータブル機器用のヘッドホンアンプ LM4880 でスピーカを駆動してみると、意外と高音質だったので、その原理と方法について説明します。

想定するシステム例

ここでは、Hi-Fi用といっても、ミニコンポ用サイズのスピーカや机の上で使用するスピーカに接続するアンプを想定します。

ONKYO D-102EX
ミニコンポ用サイズのスピーカ ONKYO D-102EX (コンポ用スピーカとして販売されていた製品) を接続する場合の一例

下図のようなノートPCに接続する構成では、アンプが小さいので、机の上だけでシステムを完結させることもできます。

机の上だけでシステムを完結
ノートPCに接続する構成では、アンプが小さいので、机の上だけでシステムを完結できる

秋月 AE-LM4880 アンプ

㈱秋月電子通商が企画・開発・販売している LM4880使用 ポータブル ヘッドホン アンプ キット AE-LM4880 を使用しました。

LM4880使用ポータブルヘッドホンアンプキット AE-LM4880
https://akizukidenshi.com/catalog/g/gK-12328/

AE-LM4880
秋月電子通商が企画・開発・販売している LM4880使用ポータブルヘッドホンアンプキット AE-LM4880

アンプICなどの表面実装部品は、予め半田付けされています。リード付きのコンデンサや抵抗は、自分で半田付けするので、特性に関わる定数を変更することが出来ます。

AE-LM4880 の基板
アンプICなどの表面実装部品は、予め半田付けされている

TI社 LM4880

下図は、TI社 LM4880 アンプの拡大写真です。10年以上前に、TI社が買収した NS社(ナショナル・セミコンダクタ)のロゴ・マークが入っています。

本品は、ポータブル・オーディオのヘッドホン用アンプとして、小型で低消費電力でありながら高音質であったことから、音質を重視する機器に多く使われていました。

TI社 LM4880 アンプ
TI社 LM4880 アンプ。NS社(ナショナル・セミコンダクタ)のロゴ・マークが入っている

アンプICの定格出力は 250mW (8Ω)です。ヘッドホン用アンプとしては高出力です。Hi-Fi スピーカ用アンプとしては、貧弱に思えるので、本当に使えるかどうかを確認しました。

何ワットのアンプが必要なのか

実は 250mWは、そこそこ大音量です。一般家庭で窓を開けた状態だと外まで聞こえる音量です。夜間だとドアや窓を閉めていてもマンションの隣の部屋に音漏れする可能性があります。

下図はコンポ用アンプ 60W と、今回、作成する 200mW(8Ω) アンプの入出力特性図(イメージ)です。縦軸には、アンプの出力だけでなく音圧レベルの目安も併記しました。スピーカとの距離は1mです。卓上などで40cmの距離で聴く場合は音圧が8dB上昇し、ステレオだとさらに3dB増えます。

アンプの入出力特性図
コンポ用アンプ 60W と、今回、作成する 200mW アンプの入出力特性図(イメージ)

本図から、コンポ用アンプの出力に比べて300倍の違いがある200mWのアンプであっても、緑色の所要性能の範囲を概ねカバーできることが分かります。

音質が良いかどうかは、アンプの歪み特性が大きく影響します。ところが、一般的な家庭環境だと周囲音(雑音)があり、歪み音が雑音レベルよりも20dB以下になると、歪み音が聴こえなくなります。

ヘッドホンだと、音量も上げれるし、密閉型だと周囲音も下がります。しかし、スピーカだと、実用上、音量に上限があり、周囲音も下がりません。実使用を考えれば、「ヘッドホン用アンプで足りないものは無い」と考えることも出来るのです(ただし、設計や環境による)。

設計事項

設計事項①利得

コンポ用アンプは、様々な入力やスピーカに対応するために、高出力となっています。自作品では、使用する機器に合わせて、アンプの利得を設定することができます。

下図は、PCのオーディオ出力 1.0VRMS を増幅し、公称インピーダンス8Ωのスピーカに接続する200mWアンプの設計例です。利得 1.3倍を設定するためにR2とR6を27kΩに変更しました。

PCのオーディオ出力 1.0VRMS を増幅し、公称インピーダンス8Ωのスピーカに接続する200mWアンプ(秋月電子通商が作成した回路図をベースに追記)

以下に筆者が想定した要件での設計例を示します。

アンプ入力アンプ出力目標利得抵抗値 (R2,R6)
1.0V (PC)自作スピーカ 8Ω1.3倍27kΩ
1.0V (PC)市販スピーカ 4Ω0.9倍18kΩ
1.0V (PC)ヘッドホン 32Ω2.5倍47kΩ
0.5V (スマホ)自作スピーカ 8Ω2.5倍47kΩ
0.5V (スマホ)市販スピーカ 4Ω1.8倍33kΩ
0.5V (スマホ)ヘッドホン 32Ω5.1倍100kΩ
アンプの入出力に応じて適切な利得を設定する

設計事項②可変抵抗器のAカーブとBカーブ

付属の説明書に可変抵抗の入力の並列R11とR12の有無について書かれていたので、違いを計算してみました。

下図の茶色がR11とR12をオープンにしたときのAカーブの可変抵抗器の特性の一例、赤色がR11とR12に10kΩを入れた場合の特性例、破線はBカーブ特性の一例です。

可変抵抗器AカーブとBカーブの特性例
スピーカに接続する場合はBカーブの可変抵抗器が、ヘッドホンの場合はAカーブの可変抵抗器が適している。付属のAカーブの可変抵抗器とR11,12に10kΩを入れると中間的な特性になる

このグラフから低出力アンプにはBカーブの可変抵抗器が、高出力アンプにはAカーブの可変抵抗器が適していることが分かります(R11,12はオープン)。今回は、Bカーブが適していますが、キット付属品がAカーブなので、付属の可変抵抗器と、R11,12に10kΩを実装しました。

キットの組み立てと動作確認

まずは、動作確認のために説明書通りに組み立ててみました。マイクロUSBコネクタから電源を供給し、INPUT端子にオーディオ信号を入力し、ブロック端子にスピーカを接続します。

AE-LM4880
まずは説明書通りに組み立てて動作確認してみた

下図はスピーカーケーブルを接続した時の例です。ショートしないように気を付けてください。ショートするとLM4880を壊してしまいます。

スピーカーケーブルを接続した。ケーブルがショートするとLM4880が壊れるので注意する

なお、初期状態では利得が5倍(14dB)に設定されているので、可変抵抗器は左半分の範囲内で使用してください。

利得を変更し、ケースに入れた

前述の設計に合わせて利得を変更し、ポリカーボネート製のケースに収納しました。基板は3分割できるようになっており、電源とブロック端子用の基板を切断し、ACアダプタ用のDCプラグとバナナジャックを接続しました。

ポリカーボネート製のケースに収納
設計通りに利得を変更し、ポリカーボネート製のケースに収納した

スピーカ出力用の端子には、頻繁に接続を変更できるように、バナナジャックを使用しました。

バナナジャックを使用
バナナジャックを使用すれば、スピーカの接続変更が容易

使用したスピーカ

今回、使用したスピーカは以下の2種類です。

仕様ONTOMO 2016※改造ONKYO D-102EX
方式1ウェイ バックロード※改造2ウェイ バスレフ
ユニットFOSTEX M800 8cm2.5cm, 13cm
インピーダンス
出力音圧82.5dB85dB
周波数帯域105~32kHz45~35kHz
定格入力5W70W
容量4l10l
使用目的・200mW アンプ
 (R2,R6=27kΩ)
・簡易測定(周波数,歪)
・主観評価
・100mW アンプ
 (R2,R6=18kΩ)
・Hi-Fi スピーカ
・主観評価
※改造内容:https://bokunimo.net/blog/audio/3864/

周波数特性、歪み率

INPUT端子(ステレオジャックの左側)にオーディオ信号を入力し、バナナジャックにスピーカを接続し、スマホにて簡易測定を行ってみました。

INPUT端子(ステレオジャックの左側)
INPUT端子(ステレオジャックの左側)にオーディオ信号を入力し、バナナジャックにスピーカを接続した

下図は、1kHzの基準信号とスイープ信号を8Ωの負荷に入力し、スマホで簡易(目安)測定した結果です。

125mW出力時の第2高調波歪み率は0.12%、第3高調波は0.03%とHi-Fiオーディオ並みでした。第2高調波は第3高調波に比べて、聴覚では分かりにくいだけでなく、音色が明瞭になる成分でもあります。

周波数特性は測定可能な50Hz~22kHzが得られていました。実際には、この範囲を超えていると思います。なお、小さな凸凹は実際の測定値ではなくFFT窓の影響です。

125mW出力時の第2高調波歪み率は0.12%、第3高調波は0.03%とHi-Fiオーディオ並み
※簡易測定につき計測誤差が測定器よりも多く含まれます

スピーカ(公称インピーダンス8Ω)を含めた特性(環境ノイズの影響を含む)も、ほぼ同様の結果でした。

スピーカを含めた特性
スピーカを含めた特性(環境ノイズの影響を含む)も良好

使用したスピーカは、下記で紹介した ONTOMO MOOK 2016年版の付録を基に改造したスピーカです。

以上から、簡易測定の結果を見る限りは、Hi-Fiオーディオ用アンプに近い良好な特性を示していました。

スピーカに接続して試聴する

試聴①音量ボリューム

ONTOMO MOOK 2016年版の付録スピーカ(改造品)を使って、音量と音量調節用ボリュームを確認しました。

ボリューム中央(約-12dB)で、ながら視聴に適した音量が得られ、右端で十分に大きな音(普段の試聴範囲)が得られることが分かりました。夜間であれば20~30%程度(-30~-20dB)くらいでも十分に聞こえました。

音量感や、音量調整用ボリュームの使い心地は、想定通りでした。

試聴②ONTOMO 2016 主観評価

次に、スピーカ切り替え機を使用し、製作品アンプ(200mW)と市販のアンプ(ONKYO A-905TX)を切り替えながら音色を比較しました。

正弦波を定格近くで入力しない限り、音の違いは判別できませんでした。

入力信号音の違い(ONTOMO 2016)
ホワイトノイズ判別できず
1kHz -20dB判別できず
1kHz -10dB判別できず
1kHz 0dB(75dB@1m)製作品に異音を認識
ポップス音楽 -20dB判別できず
ポップス音楽 -10dB判別できず
ポップス音楽 0dB判別できず
管弦楽曲 -10dB判別できず
管弦楽曲 0dB判別できず
通常のアンプ(ONKYO A-905TX)と切り替えながら音色を比較。最大音量でも違いは感じられなかった(筆者・主観)
ポップス音楽:Amazon Music – POP Culture シャッフル再生
管弦楽曲:Gustav Mahler – 交響曲第5番 第1楽章 冒頭

試聴③ ONKYO D-102EX 主観評価

一方、ミニコンポ用サイズのスピーカ ONKYO D-102EXを接続した場合(アンプ利得0.9倍,出力100mWに変更)については、最大音量時に通常のアンプとの差が感じられました。

ミニコンポ用サイズのスピーカ ONKYO D-102EXを接続したときの様子
ミニコンポ用サイズのスピーカ ONKYO D-102EXを接続したときの様子

以下のとおり、定格100mW付近では、音楽再生においても音割れを感じることがありました。このスピーカは、もともと入力ソースに含まれる小さな異音も再生できるので、スピーカそのものの解像度が高いことが影響しているのかもしれません。

入力信号音の違い(ONKYO D-102EX)
ホワイトノイズ判別できず
1kHz -20dB判別できず
1kHz -10dB判別できず
1kHz 0dB(75dB@1m)製作品に異音を認識
ポップス音楽 -20dB判別できず
ポップス音楽 -10dB判別できず
ポップス音楽 0dB製作品に音割れを認識
管弦楽曲 -10dB判別できず
管弦楽曲 0dB製作品に音割れを認識
最大音量時に音割れを感じた

試聴結果まとめ

インピーダンスが8Ωのスピーカについては、Hi-Fiオーディオ並みの実力性能が発揮できていると感じました(試聴条件下)。

インピーダンスが4Ωのスピーカにおいても、普段のながら聴きには支障ありませんでしたが、8Ωのスピーカに比べると、やや出力不足を感じました。

もともとヘッドホンアンプであることや、データシートについても8Ωで仕様が規定されているので、8Ω以上のスピーカで使用するのが無難でしょう。

自作アンプならではの改良

自作品だと改良も容易です。いくつか改良したことについて、記します。

音量調整用ボリュームつまみ

ケースの大きさを考慮すると以下の音量調整用ボリュームつまみが候補となります。

ツマミ(ノブ) Dカット 指標付き S-42:
https://akizukidenshi.com/catalog/g/gP-16278/

小型ボリューム用ツマミ(ノブ) 15mm ABS-28:
https://akizukidenshi.com/catalog/g/gP-00253/

音量調整用ボリュームつまみS-42(左)とABS-28(右)
音量調整用ボリュームつまみS-42(左)とABS-28(右)

ところが、本キットに付属する可変抵抗器の軸に適合するのは、Dカット(Dシャフト)と呼ばれるタイプです(一例=写真・左の S-42)。一般的な可変抵抗で使われているタイプ(写真・右のABS-28)は適合しません。

S-42は、つまみ位置を指で確認できるメリットがありますが、現在の位置から上げ下げ調整するときは、摘まみにくいというデメリットもあります。本製作では、音量調整ボリュームなので、上げ下げ調整を頻繁に行うので、ABS-28(写真・右)の方が便利です。

そこで、筆者はABS-28の内部を彫刻刀で削り、接着剤を充填して取り付けました。

ヒートシンク

Raspberry Pi 用のヒートシンクをアンプIC LM4880 に取り付けてみました。指で触った限りは発熱は確認できませんでしたが、長時間試聴での発熱による歪み率の悪化を緩和できると思います。熱伝導シートと白光のハックルーで固定しました。

Raspberry Pi 用のヒートシンクをアンプIC LM4880 に取り付けた
Raspberry Pi 用のヒートシンクをアンプIC LM4880 に取り付けた

Bluetooth対応

ケース左側の空きスペースにBluetoothモジュールを取り付けて、オーディオ信号をBluetooth経由で入力することも出来ます。Bluetoothモジュールは、市販のワイヤレスヘッドホン用などを取り外して使用すれば簡単です。

Bluetooth のオーディオ受信に対応したLM4880搭載アンプ
Bluetooth のオーディオ受信に対応したLM4880搭載アンプ
Bluetooth部は、市販のワイヤレスヘッドホン用などを取り外して使用する
Bluetooth部は、市販のワイヤレスヘッドホン用などを取り外して使用する

Bluetoothモジュールは、消費電流の増大をまねいたり、ノイズ源になることもあるので、Bluetooth専用の電源スイッチを取り付けて、BluetoothのみをOFFできるようにしました。

Bluetooth は消費電流の増大やノイズ源になることもあるので、Bluetooth専用の電源スイッチを取り付けた
Bluetooth は消費電流の増大やノイズ源になることもあるので、Bluetooth専用の電源スイッチを取り付けた

ノイズが発生してしまった場合は、電源のコンデンサを増やすなどを行って対策してください。

自作アンプシリーズ

同じサイズ、似たようなレイアウトで様々なアンプをシリーズ化し、用途や気分に応じて使い分けています。

同じサイズ、似たようなレイアウトで様々なアンプをシリーズ化すれば、用途や気分に応じて使い分けれる
同じサイズ、似たようなレイアウトで様々なアンプをシリーズ化すれば、用途や気分に応じて使い分けれる

それぞれの製作記事は、下記をご覧ください。

ボクにもわかるオーディオのブログ by bokunimo.net

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