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オーディオ 日記

KORG Nutube と Sansui トランスで作る真空管オーディオ・アンプ (OPA版)

前回と今回のアンプ製作

手軽に手作りで楽しめる真空管アンプを紹介しています。出力は控えめですが、ヒートシンクや電源回路が簡単になるので、手作りがしやすくなります。また、意外に大きな音が鳴ります。通常の住居であれば、デスクトップ用アンプとして十分に音楽を楽しむことが出来るでしょう。

前回は、インピーダンス変換部にFETを使った0.06W出力のオーディオ・アンプを試作しました。しかし、音量を上げるとFET部の歪み率の影響が顕著に現れました。(前回の記事は、下記を参照ください。)
前回のブログ記事:https://bokunimo.net/blog/information/2150/

今回はオペアンプ(OPA)MUSES8920を使って、歪み率を改善します。もちろん、デスクトップで楽しむのに十分な音圧が得られることも確認済です。

オペアンプMUSES8920を使用して歪み率を改善する。前回(FET版)同様、電圧増幅は行わない

Nutube + トランス回路 (OPA版)

これまで同様、電圧増幅はNutubeのみで行います。スピーカ駆動に必要な電流をトランス引き出す方式で、真空管アンプらしさを引き出すのが狙いです。オペアンプは、ボルテージフォロワと呼ぶインピーダンス変換を行います(電圧を増幅しない回路)。負帰還によって出力電圧が入力電圧に合うように制御するので、Nutubeの真空管アンプの出力をより正確に再現することが出来ると考えました。

製作した Nutube真空管+OPA+トランス駆動のオーディオアンプの回路図を以下に示します。電源電圧はオペアンプに合わせて33Vにしました。

電圧増幅はNutubeのみで行い、スピーカ駆動に必要な電流をトランスで引き出す方式。電源電圧はオペアンプに合わせて33Vにした

ところで、オペアンプを使うのであれば、電圧増幅率(電圧減衰)を1未満に設定し、トランスを無くしたほうが低コストで、音質も向上できます(オペアンプの要件の範囲内であれば)。しかし、本稿では、あえて真空管アンプに近いブロック構成に近づけ、トランスも含めた真空管アンプの音色の再現を目指しました(オペアンプの出力電流を減らせるので、Nutubeの特性を、より忠実に再現できると考えた)。

33V出力DCDCコンバータ部

ACアダプタは6V出力の一般的な製品を用い、DCDCコンバータで昇圧して33Vを作ります。コンデンサCtの容量は40V出力時にオーディオ帯域に異音が生じたので33pFを使用し、そのままの状態です。33V出力では確認していないので、もし異音が出なければ、100pF~680pFの範囲内で使用したほうが良いでしょう。

6VのACアダプタからDCDCコンバータで昇圧して33Vの電圧を作る

真空管の特性を引き出す設計

Nutubeの最大出力(1.7mW)の上限ギリギリを狙い、Nutubeの負荷抵抗R8を150kΩにしました。電源電圧は32Vで設計しました。筆者のNutubeは個体差の影響で出力が20%ほど低めなので、32V設計のアンプを33Vで使用しても問題ありません。(もし、入力バイアスDC電圧2.0V時に21.8V以上のDC電圧が出力される場合は、最大出力を超過してしまうので、長時間使用しない、もしくは電源電圧を下げる、負荷抵抗を増やすといった変更が必要です。)

Nutubeの最大出力は1.7mWのギリギリを狙い、負荷抵抗R8を150kΩにした

ユニバーサル基板への実装例

下図はユニバーサル基板への実装例です。基板の左側から順に、Nutube、Sansuiトランス、基板の中央部のICがオペアンプMUSES8820です。基板の右側はDCDCコンバータを含む電源部です。前回(写真)のFET部をオペアンプに変更しました。

基板の左側から順に、Nutube、Sansuiトランス、基板の中央部のICがオペアンプMUSES8820

下図は裏面です。部品の取り外し時に数箇所のランドが剥がれてしまいました。また、製作前から部品の配置を決めていた前回(写真)と異なり、後からオペアンプの配置を決めたので、ジャンパ配線が増えてしまいました。

前回の製作後にオペアンプの配置を決めたので、前回よりもジャンパ配線が増えてしまった

動作確認結果

下図は、Nutube+OPAの入出力をオシロスコープで確認した時の様子です。電圧増幅度Av=5.0が得られました。前回の測定結果()と同じく、設計時の6.3よりも20%も低いのは、Nutubeの個体差によるものだと思います。また、前回の電圧増幅度Av=6.3よりも下がっているのは、電源電圧を下げたためで、前記の設計通りの結果です。

Nutube+OPAの入出力をオシロスコープで確認した時の様子。電圧増幅度Av=5.0が得られた

下図の左側が前回の周波数特性(緑)と1kHzの歪み率(青)の測定結果、下図の右側が今回の測定結果です。低音域と高音域が増大したことと、歪み率が改善したことが分かります。これは、オペアンプの負帰還制御の作用によるものと思います。

左側が前回、右側が今回の周波数特性と1kHzの歪み率の測定結果。歪み率が改善できた

なお、これら測定日や周囲音は異なり、今回は空気清浄機のファン音が混入し、背景雑音が多い状態でした。また、簡易側的につき製作品の性能を示すものではありません。

試聴結果(主観)

前回の製作品(リンク)を改造したので、前回と今回の比較を直接行うとは出来ませんが、共通のリファレンス機と比較試聴した結果を以下に記します。

大きく変化したと感じたのは、高音域の歪みです。前回はリファレンス機と比較して、かなり耳障りな歪みを感じましたが、今回は同じ出力、同じ楽曲にて違和感なく聞くことが出来ました。また、低音については音圧が増大し、明瞭感も増しました。前回も今回同様にリファレンス機より低音が豊かに感じましたが、今回は低音域の楽器の実在感も増しました。ただし、低音域での歪み率が増大しているようにも感じられました。周波数が100Hzを下回ると、トランスのインピーダンスがとても小さくなるので、オペアンプが歪んでしまっているのだと思います。出力コンデンサC2の容量を1μFなど、低音の音圧が低下しない程度にコンデンサ容量を下げることで、改善できると思います。
一方、高音域の印象が、通常のアンプに近づきました。これは、歪み率を改善したことによる効果だと思いますが、通常のアンプとの差が減ったともいえます。とはいえ、リファレンス機に比べ、音声や楽器の音色の心地良さは十分に感じられ、しかもそれが小さな音量で楽しめるのは、本製作品ならではの特長です。

より大音量で楽しむ(2022/9/23追記)

本アンプをプリアンプとして使用し、後段に高出力アンプを接続することで、大音量で楽しむことも出来ます。下図は、TI製D級アンプTPA3118Dを接続し、10W出力にアップした製作例です。製作方法は過去記事「最大30W×2ch D級オーディオ・アンプIC TPA3118D2を使った超低価格アンプを製作してみた」を参照してください。

本アンプ(下段)をプリアンプとして使用し、後段に高出力アンプ(上段)を接続した製作例

このように、前段と後段の両方のアンプにボリュームを搭載しておくと、同じ音量でそれぞれのバランスを変更することも出来ます。楽曲によって、真空管優先、D級アンプ優先といった変化を楽しむことも出来るでしょう。

ただし、筆者環境では、各アンプそれぞれに別々のACアダプタから電源を供給すると、120Hzのノイズが聞こえました。ヘッドホン入力端子の部分でGNDが共通化されてしまうのが原因だと思います。1台のACアダプタの出力を2分岐して、各アンプに入力すると、ノイズが消えました。

ヘッドホンATH-AD500Xで試聴する(2022/9/23追記)

ヘッドホンに接続する方法もあります。下図は、製作したアンプの出力をヘッドホンに接続した時の一例です。

製作したアンプの出力をヘッドホンに接続した時の一例


通常、ヘッドホンのGNDは左右出力で共通なので一般的なアンプの出力を直接接続することは出来ませんが、本回路の場合、出力段にトランスを使用しているので、左右のマイナス(-)出力側を共通GNDに接続することが出来ます。

製作したアンプは、左右のマイナス(-)出力側を共通GNDに接続することが出来る

筆者は、オープンエアー型のヘッドホンATH-AD500Xを使用しました。オープンエアー型は、一般的な密閉型のヘッドホンに比べると、低音に弱いと言われがちなうえ、オープンエアー型の愛用者は重低音を嫌う傾向もあり、迫力に欠けるイメージがあります。ところが、本製品については、密閉型のようなしっかりとした低音が小さな音量でも得られます(筆者主観)。しかも、密閉型のように装着する位置によって音質が変化することもほとんどなく、聴きたいときに、さっと装着するだけ(未調整)で正しい特性が得られます。眼鏡をかけたままでも、ちゃんと低音が得られる点も、密閉型との違いでしょう。もちろん、頭に密着しないうえ、本体も軽量なので、密閉型に比べると、疲れにくいといった利点もあります。なにより低価格(アマゾンで10,800円・執筆時点)なので、すでに密閉型の高級ヘッドホンをお持ちの方も試してみると良いでしょう。

本稿で試聴した ATH-AD500X
オープン型なのに低音が楽しめる
オープン型の代表格 STAX SRS-3100
老舗独自技術を手頃に楽しむ(廉価品)

実際に試聴してみると、ほぼソースの音色のように感じられました。聞きあたりについては、通常のヘッドホン・アンプと比べ、ほとんど差が感じられませんでした。スピーカで聴く場合に比べて変化が少ないのは少し残念な結果です。
しかし、アンプを切り替えながら比較すると、旋律となる声や楽器の音色の明瞭感が増しているのが分かりました(筆者主観)。ヘッドホンは、スピーカで聴く場合に比べ、声や楽器の音を聞き分けやすいので、真空管アンプが作り出した微妙な変化を楽しむことが出来るのだと思います。普段はスピーカに接続しておき、お気に入りの曲をじっくり聞きたいときにヘッドホンで聞くといった使い分けが出来そうです。

注意点

オペアンプが発熱する場合は、ヒートシンクが必要です。また、負帰還の作用で、周波数によって消費電流が著しく増大する可能性もあるので、余裕をもった熱設計をしてください。筆者は、オペアンプ部にRaspberry Pi用のヒートシンクを取り付けました。

本記事で紹介した真空管アンプは、真空管のみで電圧増幅を行いますが、電流の増幅にオペアンプを使用します。また、低い出力(0.06W)なので、大きな部屋での鑑賞や、音圧の変化が大きな楽曲には不向きです(楽しめるが一般的なアンプの方が良い)。なるべく、始終にわたってリズム音がはっきりした楽曲で楽しんでください。

DC33Vは、一般的な電子工作で使用する電圧よりも高いので、火災や感電などのリスクが高まります。部品の選定(耐圧)や基板のパターン配線(GNDと隣接したランドをなるべく使用しない)、電線(耐熱)、ケースの材質(難燃性)などに注意してください。

参考文献

KORG Nutubeサイト:
https://www.korgnutube.com/

DCDCコンバータNJM2360アプリケーションノート:
http://www.kyohritsu.jp/eclib/OTHER/DATASHEET/JRC/njm2360app.pdf

by bokunimo.net